あなたのスケジュール、教えてください！｜リアクション

あなたのスケジュール、教えてください！

　朝、寝子島町役場。
　いつもと同じように出勤した朝衣は自分のデスクについた。
　今日のスケジュールを確認し、メールのチェックをする。
「この案件は」
　一件だけ、すぐ返信する必要がありそうなメールを見つけ、本文を作成する。
「秋はイベントが多いわね」
　メールを送り終えたところで、朝礼が始まった。

　騒がしい役場内、不意に電話の音が鳴り響いた。
　朝衣はパソコンのキーボードを打ちながら、近くの固定機の受話器を取る。
「はい、寝子島町役場です」
『あー……お姉さん、ちょっと聞きたいんだけどねぇ』
　どうやら年配の女性のようだ。
「はい、どうしましたか？」
　電話対応は慣れたものだ。こうしたお年寄りからの問い合わせは珍しいことではない。
　対応しながら、会議用の書類作成をこなし、一息つくと、デスクにコーヒーが置かれた。
「お疲れ様です」
　この春から入った新人の女の子がお盆を持って立っていた。
「ああ、ありがとう」
　そのお盆にはコーヒーが注がれたたくさんのコップが載っている。配っているらしい。
　コーヒーを一口すすり、会議用の書類の見直しを始めた。

　午前中の授業が終わった寝子島高校。昼休みの雰囲気は緩く、全体的に賑やかな空気が流れている。
　小山内海は友人と共に学食へ来ていた。
(何にしよっかなぁ)
　Aランチはおろしハンバーグ定食、Bランチはブリの照り焼き定食だった。
　見本が置いてあるのだが、おろしハンバーグは大きめのサイズでかなり美味しそうだ。
「どうする？」
　友人に聞かれたので、スケッチブックをめくる。
『おろしハンバーグにする』
　友人はブリの照り焼き定食にするそうだ。
　列に並ぶと、メニューの受け渡し口で食堂のおばちゃんと男子生徒がじゃんけんをしていた。
(……？)
　不思議に思っていると、友人が前に並んでいる生徒に聞いてくれた。
「私もさっき聞いたけど、じゃんけんに勝つと、もう一品プレゼントしてくれるみたいだよ！」
　そう説明したのは白真白であった。彼女も友人と二人で列に並んでいたのだ。
　受け渡し口のおばちゃんはじゃんけんが強いらしく、次々と敗れて行く。
「ドキドキしてきた」
　真白は深呼吸をして、手を握ったり開いたりする。ちなみに頼んだのは知らす釜揚げの寝子島丼だ。
　海が首を傾げて、スケッチブックを広げる。
『勝てたら、一品は何にする？』
　真白は少し考えて、
「しらすだから、同じ海のものでブリかな。よーし、頑張ろ」
　と、列に並んでいた生徒達がざわざわし始めた。
　見ると、チョキを出した白衣を着たおばちゃんの前にいるのは髪の長い女子生徒、琳子。やや固い表情でグーを出している。
　周辺の生徒達の反応はというと、
「あの、二十連勝中だったおばちゃんを」
「すげー」
　どうやら最初の勝利者が出たらしい。
「いやー、負けたよ。じゃあ、一品おまけだね。どうする？」
　琳子はおばちゃんの問いに少し考え、
「おあげをもう一枚お願いします」
「はいよ」
　琳子は二枚のお揚げが乗ったきつねうどんをトレーに乗せ、食堂の席へと戻って行った。
　次におばちゃんの前に立ったのは冬華である。
「さて、じゃんけんするかい？」
　問われた冬華は、『はい』と言いかけて、思いとどまる。これまでの経験から肉の栄養は恐らく胸に行くだろう。
「……今日は遠慮しておきます」
　冬華は頭を下げて、いそいそと席へ戻って行った。
　やがて、真白の順番がきた。
「それじゃ、じゃんけんするかい？」
「しまーす」
　真白は元気よく手を上げて、じゃんけんの構えをする。
「行くよ、じゃーん、けーん、ぽん！」

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