Another World Story｜リアクション

Another World Story

★小悪魔バニーはトップアイドル！（羽生碧南）

「「「ハッピー・ハロウィーン！！！」」」
　辺りに響き渡る、賑やかな声、声、声。
　それから、ちょっと不気味なクスクス笑いに、風が鳴るような囁きも。
　ハロウィンの時期はもう終わった？
　そんなこと、このハロウィン・ワールドの住人には関係なし、だ。
　ほら、今、こちらへと歩いてくる少女も、黒猫模したカボチャランタンを提げている。

「ハッピー・ハロウィン！　パンプキンタウンの皆！」
　碧南が溌溂としてそう声を投げれば、街の人々はわっと歓声を上げた。
「碧南ちゃん、今日も可愛いー！」
「今日は私を誘惑してー！」
「いや、碧南ちゃんに誑かされるのは俺だ！」
　わいわい、がやがや。
　人々の歓迎に、碧南はにこやかに手を振って応える。
　小振りで愛らしい悪魔の羽と、チャーミングな悪魔の尻尾が緩やかに揺れた。
　碧南は、ハロウィン・ワールドのトップアイドル的存在だ。
　中でも、地元たるこのパンプキンタウンの熱狂っぷりはすごいったらすごい。
　さて、その碧南は、
（皆のラブの力が私の栄養になるんだから、ウィンウィンってやつよね）
　なんてことを、こっそりと考えていた。
（だけど、人気悪魔も結構大変。あーあ、早く家に帰りたい！）
　ちなみに、今日の碧南は、バニーガールスタイルで決めている。
　胸元、身体のライン、すらりと長い脚。
　どこを取ってももとびきりセクシーで、街の人々は碧南にもうメロメロ。
　悪魔の角があるからうさぎの耳はつけられないけれど、そこはご愛敬だ。
（よし、じゃあそろそろ……）
　撤退しようかな、と碧南が考えた、丁度その時。
「碧南。今日の君も、格別素敵だね」
　甘やかな声が耳を揺らして、碧南は声の方を振り返った。
　そこに立っていたのは、金髪碧眼の、気品漂う美青年ヴァンパイア。
　ヴァンパイアの青年へと、碧南は柔らかな笑み（営業スマイルだ）を向けてみせた。
「ええっと……今日も会いに来てくれたの？」
「勿論。僕は本気で、君のことが好きだからね。薔薇の花束、受け取ってくれる？」
「って、ちょっと待ったぁ！！」
　２人の間に割って入るのは、整った、けれど少し幼げな顔立ちの別の青年だ。
　青年の頭の上で、狼の耳がぴくぴくと動く。
「碧南は俺のだ！　色目使うんじゃねぇよ、吸血鬼野郎！」
「狼男、またお前か。お前に邪魔ばかりされて、碧南だって迷惑して……あれ？」
　男２人が言い争っている間に、碧南の姿は、パンプキンタウンからすっかり消えていた。

※

「あー！　今日もお勤め頑張ったー！」
　熱烈なファン２人が揉めている隙に、サクッと帰宅を果たした碧南。
　彼女はうんと伸びをすると、「さて、と、」と携帯ゲーム機を手に取った。
　身体を包み込むタイプの大きなクッションにもたれかかって、ゲームの電源を入れる。
　ゲーム画面に表示されたタイトルは、『ドキドキ♡虹夢学園！』。
　人間の世界が舞台の、学園モノ乙女ゲームだ。
「はあ……ヒカルくん、今日も最ッ高。推しが尊すぎて幸せ……」
　悪魔としての栄養は人々から頂くけれど、心の栄養は乙女ゲームから。
（リアルに興味がないわけじゃないけど、乙女ゲーの魅力には敵わないっていうか……）
　いつか、碧南にも運命の相手が現れるかもしれない。
　でもそれは、ミーハーなファン達や、イケメンだけれど自分本位な吸血鬼や狼男ではないのだ。
「あーもう！　人間の世界で普通の女の子として学校に通って、青春っぽい恋愛がしてみたーい！」
　碧南の叫びが、アイドル稼業で手に入れた豪邸に木霊する。
　窓の外ではお月様が、「おやおや」とばかりにニヤニヤ笑いを浮かべていた。

このページにイラストを設定する