出世払いで秋ごはん！｜リアクション

出世払いで秋ごはん！

☆定食屋

　落合まゆらは、寝子島アニメーション学院声優科1年生です。
　この前の校内選抜──来年の春アニメで、ガヤも同然の端役ながら、その役を声優の卵に充てるというもの──で、まさかの合格通知を手にし。
　告げられた時に、呆然とし、ボロボロ涙をこぼしたのは、ついこの前の、19歳の誕生日のことでした。
　それからというもの通常の授業やバイト以上に忙しくなったこともあって、あっという間に９月が終わった気がします。

「ああ……お腹空いたなー」
　今日も一日、学校でひたすらハードなレッスンに明け暮れたまゆらです。
　しかもこの後、星ヶ丘にあるファミレス『CamicieＸrosse!! 』でのバイトもあるのです。
（何か食べないととてもじゃないけど身体が持ちそうにない。でも節約しないと……）
　合格したと言ってもテロップに名前も出ない端役、出演料がもらえるわけもありません。　
　空きっ腹を抱えてとぼとぼ歩いていると、定食屋が目に入りました。
　……正確には、入り口に貼られた『出世払い』の文字に目が釘付けになったのです。
　吸い寄せられるように中へ入ったまゆらは、店の人に尋ねました。
「あ、あの……出世払いって？」
　そんなうまい話があるのでしょうか。
「はい、一食だけ無料になります」
「一食だけタダで食べさせてもらえるって！？　ほんとに！？」
　これこそ天の助け！
（今日はこれからバイトだから、がっつりとスタミナのあるもの食べよう）
　そう思ってまゆらは焼肉定食を注文しました。
「こういう機会でもないとなかなか食べられないよね」
　
　いよいよやってきた焼肉定食。
　牛肉の食欲をそそる香りに、味噌汁の匂い……生野菜もしっかりついて栄養は満点です。
「というわけで、いただっきまーす！」
　空腹はゆっくり味わう余裕を与えてくれませんが、でも、美味い！
　油とタレの旨みが、舌と脳を幸せにしてくれます。
（焼肉ってこんなに美味しかったんだ）
　いつか美味しいご飯を食べる役を掴んだ暁には、きっとこの経験が演技に役立つことでしょう。
（ビバ！　出世払い！　ブラボー！　タダ飯！）
　脳内にさまざまな幸せ効果音が鳴り響く中。
「ごちそうさまでしたっ！」　
　まゆらは幸せな食事を終えたのでした。

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