出世払いで秋ごはん！｜リアクション

出世払いで秋ごはん！

☆とんかつ屋で

　つい最近17歳の誕生日を迎えたばかりの羽生碧南は、寝子高バスケ部のレギュラーで、180センチの高身長女子です。
　ひとたびコートに立つと戦う女になる碧南の運動量は半端なく、普通の女子より燃費がかかります。
　しかも大の乙女ゲー好きなので、懐具合は決して温かいものではありません。
　日曜日の午前中。ユニフォームと用具一式入ったバッグを肩にかけて、碧南ははシーサイドタウンのゲームショップへやってきました。
　部活は午後からなので、新作タイトルを確認しておきたかったのです。
　いくつかのゲームと、グッズをチェック。
　新作のゲームは魅力的でした。
「これ、欲しい」
　と思いましたが。
（でも所持金を考えると、とてもじゃないけど来月まで我慢するしかないわよね……）
「はあ……」
　切なげにため息を吐いて、碧南はゲームショップを後にしたのでした。

　時間を見ると、練習までまだまだ余裕があります。
（どこかでお昼食べようかな）
　適当に歩いていると、揚げ物のいい香りが鼻を刺激しました。
「ああ……いい匂い」
　空腹を刺激されて、ふらふらとそちらへ進んでいくと、とんかつ屋さんがありました。
「とんかつ屋さんかぁ……食べたいけど、お金がない……」
　ショーケースに並ぶ美味しそうなメニュー中でも、一際豪華な一品に碧南は目を吸い寄せられました。
　ロースカツ・ヒレカツ・チキンカツ・コロッケ・大エビフライを盛り合わせた『バラエティかつ膳』。
「何これ、乙女ゲーでいったらハーレム状態じゃない！　でも1800円って高すぎる……」
　ゲームのほうが高いだろう、とかそういうことではありません。
　ゲームは食べてもなくならず、何度も楽しめるのですから。
　そこへ店の人が顔を出しました。
「お嬢ちゃん、今日は出世払いデーだから食べていきな」
「え？　出世払い？　今はタダってこと？　うそ、マジですか！？」
「ああ、マジだとも」
「やったあ！」　
　キラキラと目を輝かせ、さっそく、空いている席に座った碧南は『バラエティかつ膳』を注文しました。
　ワクワクしながら運ばれてくるのを待ちます。
（食費が浮けば、それだけゲームが買える日が近くなるよね）
　そしていよいよバラエティかつ膳が運ばれてきました。
（なんていい香り！　乙女ゲーに例えると、正当派熱血少年のロース、脂ぎってなくソフトな優しさのヒレ、あっさりしてるのが魅力のチキン、素朴なコロッケに個性的な魅力のエビフライ……どれから食べよう？　ああっ、選べない！）
　悩みつつも箸を伸ばすと、もう止まりません。
　まさに至福の時を満喫する碧南でした。

（これで午後からの練習、頑張っていくよ！）
　１８００円分の美少年、じゃなかった豪華かつ膳は、碧南のお腹も心も満たしてくれたのでした。

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