出世払いで秋ごはん！｜リアクション

出世払いで秋ごはん！

☆讃岐うどん屋で

　見た目は清楚な、鎌倉の名家のお嬢様然とした楡宮遠海。
　しかしその実体は、見かけからは想像もつかないほどの規格外の食欲を持つ少女なのでした。
「普段軽音部でショルダーキーボードをかき鳴らしたりしているので、どうしてもお腹がすくのよ」
　とは本人の弁ですが、運動部の男子でも遠海ほどの大食いは珍しいかと思われます。
　とはいえ財布の中身には限りがあるわけで、満腹になるまで食べまくるというわけにはなかなかいきません。
　そんな遠海にとって夢のような出来事が起こりました。　

「今日は出世払いデーですって？！」
　鎌倉在住の遠海ですが、そんな話を聞いては居てもたってもいられずに、休日の寝子島へ朝から乗り込んできました。
　早速目についた店──讃岐うどん屋に入ってみました。
「あの、今日は『出世払いデー』でお金がいらないってほんとですか？」
　最初に店の人に確認するのを忘れません。
「はい、本当ですよ。ただし一食分に限りますので、お替りはできません」
「ありがとうございます！　それじゃ、大盛りのかけうどんをお願いします。トッピングもタダですよね？」　
　かけうどんが来ると、ここからが本番とばかりにさっそくセルフでトッピングを取り放題です。
　かき揚げ、海老天、ちくわ天、アナゴ天、玉子天、コロッケなど。
　みるみるうちに丼は山盛りとなり、喜んでもらえるならとにこやかだったお店の人の笑顔がだんだん固まってきました。
「おにぎりも各種とりまくり……これだけとっても全部タダ！」
　満足した遠海は、麺が冷めるのを待ちながら、幸せそうにトッピングやおにぎりを食べ進めます。
「美味しい……」
　食べながら、ふとひらめきました。
（一店舗一食のみだったわね。ということは、はしごすればカレーにラーメンにステーキに中華に和食にイタリアンにフレンチに……これって寝子島中の食べ物屋さんをタダで食べ歩きできるってことじゃない！）
　気づいてしまったからには、それを実行に移さねばならない。
　注文したものを残さず平らげると、満足そうに遠海は手を合わせました。
「ごちそうさまでした」

　こうして、喜びと何か使命感に火がついた遠海の、食べ歩きの一日が始まりました。

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