１０月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

１０月の☆ハッピーバースデー

●10月7日
　10月7日。巫部紫苑は17歳の誕生日を迎えた。
（去年は当日まで忘れていたんですけれど、今年はちゃんと憶えていて良かったです♪）
　その日の放課後、紫苑は誕生日を迎えるにあたり、自分へのささやかなご褒美を贈ろうと街に向かった。
　夕刻のシーサイドタウンは、夕食の材料を買い求める主婦や、学校帰りに寄り道をする高校生・大学生達でごった返していた。
「早く行かないと、欲しいものが売り切れてしまうかもしれませんね」
　想像以上の人の多さに、普段はのんびりとしている紫苑も、このときばかりは少しばかり歩調を速めた。
　ご機嫌な表情で紫苑が向かったのは街の食料品店だった。
　お目当ては、今晩作る予定のパーティー料理の材料。チョコレートのバースデーケーキに、から揚げ、ピザ、サラダ、マリネも作る予定だった。
（カロリーの取りすぎはよくないですけど……今日ぐらいは思い切り贅沢しちゃいましょう♪）
　鼻歌でも歌いだしそうな気分で生鮮食品を歩いていると、紫苑の紅の瞳がギラリと光った。
「あ、あれは……！」
　次の瞬間、牛肉コーナーで特売されていた肉塊に手が伸びていた。こと食べ物のことになると、紫苑の動きは普段からは想像もつかぬほど俊敏になる。
「……ローストビーフも追加ですね。ふふふ。今日はとてもいいお誕生日になりそうです♪」
　惣菜として買えば値の張るローストビーフだが、じつは自宅で手軽に作ることができる。
「ちょうどお肉が特売の日に行きあたるなんて、これも神様からの贈りものでしょうか？」
　普通にお店で買った場合との差額を計算し、紫苑の顔も自然とほころんだ。
　本当に今日は良い誕生日になりそうだ。
＊　＊　＊
　買い物を済ませて自宅に戻った紫苑は早速調理に取り掛かった。
「ケーキのスポンジとピザの生地はすでに用意してありますから、まずはから揚げの下処理をして、と」
　鶏肉を程よいサイズに包丁で切り分けて、下味をつけて粉をまとわせる。同時にサラダやマリネを盛りつけて、メイン（？）のローストビーフの調理も始める。
「軽く焼き目をつけたお肉をつけタレに漬けて、お湯を張った炊飯器に入れて……これで、よし」
　さらにピザをオーブンで焼き、からあげをこんがりとキツネ色になるまで油で揚げる。
　最後に、（ここがじつは最大の難所であるのだが）ケーキをチョコレートでコーティングする。
「慎重に、慎重に……出来ました！」
　そして、無事にバースデーケーキも完成した。プロのパティシェ顔負け……とまでは行かないが、素人の手作りにしては十分過ぎる出来栄えに紫苑は満足げに何度も頷いた。
「それでは頂きましょう。ハッピーバースデー、私！」
　思い返せば、いろいろなことのある一年だった。
　楽しいことも、つらいこともあったはず。
　だが、それも今となっては全て良い思い出にも思える。
「うん、とってもおいしい♪」
　それらの全ての思い出が詰まったバースデーケーキは、甘く、ときにほろ苦い、最高の自分への誕生日プレゼントになった。

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