ココロに隙間風、感じたら｜リアクション

ココロに隙間風、感じたら

○マリエッタ・ラシュリエの悩み

　木天蓼大学大学院理工学研究科に在学するマリエッタ・ラシュリエは、シーサイドタウンを歩いていた。
　夏と秋の季節の変わり目。
　今年の夏は非常な酷暑だったので、それが急に秋に変わったので少し体の調子がおかしくなったりもした。
（まあ、風邪などには至らなかったのでよかったけど）
　その代わりにというわけじゃないだろうが、何となく心に寂しいものを感じる。
（理由はわかっているけど……）
　そんなことを思っていると、女性に話しかけられた。
「あの、何かお悩みはありませんか？　市のお悩み相談の開催中です」
「えっ……はい」
　見れば『ちょっと聞きたい、お悩み相談』という幟が立っていて、確かにイベント会場らしい。
　茶色のエアリーボブの髪マリエッタは、髪の色だけなら日本人と思われるので、ふわりとした印象もありけっこう声をかけられる。
　緑の瞳に気づいても、その時にはマリエッタが日本語でしゃべれるのがわかって問題ないのだ。
　そんなわけで、マリエッタはよく考える間もなく、優しそうな女性について中に入っていった。

「どうぞおかけください」
　勧められた椅子に座ったマリエッタは、話し始めた。
「あの……場違いなのはわかってるけど……それでも、私の話を聞いてもらえますか……？」
「もちろんです。何でも話してください」
　保健師と名乗った女性は、にっこりと笑顔を向けてくれた。
「私、長距離恋愛中なんです。彼はボストンにある大学に留学中で」
「そうなんですか。それは寂しいですよね。離れてどのくらいですか？」
「留学から二年です。今年の夏休みに久しぶりに寝子島でリアルで会えたけど、ここ最近は研究に追われているらしくてまともに連絡がつかなくて」
「お忙しいんですね」
　頷きながら、保健師さんは話を聞いてくれる。
「そう、わかってはいるんです。私自身も大学院生で、来年2月に修士論文を提出しなくてはならないし」
「それじゃあなたから会いに行くこともできないんですね……浮気が心配？」
「いえ、それは疑っていないですけど……メールは普段たくさんやりとりをしてますし」
　理系女子で理路整然と考えるのは得意なマリエッタだが、自分の気持ちだけはどうにも整理がつかない。
　ふーん、と保健師のお姉さんはメモを取りながら少し考え込んだ。

「普段メールや電話のやりとりなんですね？　それじゃあ、こんなのはどうかしら」
　お姉さんは言った。
「手紙を書くんです。思いのこもった手紙。メールは忙しければ開かないかもしれないけど、封筒にぎゅっとつまった重みのある手紙ならきっと開けたくなる」
「……そうでしょうか」
「一瞬で着くメールと違って、手紙が届くのを待つのはワクワクするものよ」
（確かに……私なら気になって開きたくなると思う）
　それでも返事をくれなかったら？　ちょっと心配ではあるけれど。
「わかりました。手紙、書いてみようと思います」
「そうね。あなたのようなチャーミングな彼女なら、彼はきっと放っておかないわよ」
　お姉さんの笑顔を見ていると、少し気が楽になった。

「ありがとうございました」
　マリエッタはお礼を言って外に出た。
　いつの間にか、外には順番待ちの行列ができていた。

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