ココロに隙間風、感じたら｜リアクション

ココロに隙間風、感じたら

○氷華・クルバトフの悩み

「なぜあのときあんなことを口走ってしまったんだろう……」
　木天蓼大学一年生の、氷華・クルバトフは、とある一件を引きずっていた。
（おそらくろっこんの仕業かもしれないが、タイミングが悪すぎる）
　一人悩んでいるとき、一枚のチラシが目に入った。
「相談、か」
　悩みを人に聞いてもらうと軽減する、と聞いたことを思い出す。
「少し相談してみるか」

　シーサイドタウンにやってきた氷華が相談場所に向かうと、行列ができていた。
（みんないろんな闇を抱えてるんだな）
　しみじみと感じる。
　ロシア人と日本人のハーフである氷華は銀髪に青い目と目立つのだが、幸い、周囲の顔が見える人の中に知り合いはいないようだ。
　しばらく並ぶと順番が回ってきて、少し緊張する。
「よろしくお願いします」
「どうぞ、おかけになってください」
　明るく優しそうな白衣の女性が笑顔で迎えてくれて、保健師だと名乗った。
「その、恋愛相談などでも大丈夫でしょうか？」
「はい、もちろんです。けっこう多いんですよ」
　女性がにっこりと微笑み、氷華は少しほっとした。
　どう話そうか悩みつつ言葉を選ぶ。
「その、知り合いに言うはずのなかった言葉を言ってしまって……それ以来顔を合わせることができずに避け続けています」
「お相手はどんな方なんですか？」
　心得たように保健師の女性は尋ねる。
「行きつけのカフェの店員さんで……お店以外でも偶然会ったり一緒に出かけたりしてたんですけど、好きだと気づいてしまって」
「そうなんですね」
「でも気持ちを告げるつもりはなかったんです。それなのに」
　あの日、感情が抑えられなくなって、好きですと告げてしまった。
（あれ以来彼に会ってないし、カフェに行くことも減った）
　保健師が聞き上手なためか、すんなり話すことができた。
（少しだけ心が軽くなった気がする）

「そうだったんですね……それで、最終的にはどうされたいですか」
　保健師さんに優しく尋ねられた。
「謝りたいし、思いも伝えたい気持ちがあります……けど、脳裏に口走ってしまったときののあの人の顔が浮かんでしまうんです」
「どんな表情でした？」
　そう言われるとまた、思い出してしまう。うぬぼれていた自分がひたすら恥ずかしい。
「……悲しそうでした。困らせてしまったのだと思います」
「そうねえ、突然で戸惑ったのかもしれませんね。でもお客さんにお店に来てもらえなくなったら、彼はきっと悲しい思いをすると思いますよ」
「……そうですね」
「何かついでの用事を作るとかして、時間つぶしに一度お店に寄ってみるというのはどうでしょう。お友達と一緒にでもいいと思いますし」
　保健師さんはおだやかに提案してくれた。
　
　相談が終わり、お礼を言って外に出た。　
　帰路につきながら今後のことを考える。
（一人で悶々と考えてても解決はしない、か）
　まだ何も解決はしていないけれど、背中を押してもらえた気がした。
　

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