変わり者悪魔は少女漫画の夢を見る？｜リアクション

変わり者悪魔は少女漫画の夢を見る？

★Lesson３．思う存分『好き！』を語ろう！

　日曜日、今日はバスケ部の練習もお休みだ。
　そういう次第で、羽生碧南は、用事をこなすべく旧市街に足を運んでいた。
　カラフルなＴシャツにパーカーとジーンズを合わせた姿が決まっている。
（用事も済ませたし、どうしようかな……あれ？）
　気になるものを見留めて、ぱたり、碧南は足を止めた。
　偶然見つけた貼り紙には、『少女漫画に詳しい方・少女漫画が好きな方、歓迎』の文字が踊っている。
　ビビッ！　と、碧南の心に電流が走った。
　乙女ゲームが大好きな碧南、少女漫画も大好物なのだ。
（それに、秋の新作乙女ゲーを購入する資金の足しになるわよね！）
　となれば、行動あるのみ！
　碧南は早速、何でも屋『いぬもり』へと突入した。

「あなた、『にゃんスタ』が好きなの？」
　何でも屋にて。碧南は、倉科みいと向かい合い、お茶をすすっていた。
「ああ。僕のバイブルだ」
「ごく普通の女子高生がアイドル部のマネージャーになって」
「うん」
「綺羅星のようなイケメンたちから好意を寄せられる、あの？」
　こくり、みいが頷く。
「ベタすぎる！」
　と、碧南は机を叩かんばかりの勢いで言った。
「え？　な、何か変だろうか？」
「違う、違うのよ……。わかる……。あのベタな展開こそ、少女漫画の王道よね！」
　碧南さん、めちゃくちゃ生き生きしてらっしゃいます。
「推しを一人に絞るだけでも大変なのに、次々と推し候補からのアプローチを受けて右往左往する様とか、様々な困難を乗り越えてやっと両思いになったかと思ったら今度はすれ違ったりしちゃったりで……本当に泣けるよね。読んで胸キュンして切なくなって泣いちゃったりして、でも最後はハッピーエンド！　もう最高！」
「うん、泣ける。最高だ。推し候補……というのは、アイドル部の面々のことだろうか？」
「あ、そうそう！」
「ふむ。僕はみぃ子が好きだが、確かに、彼らもそれぞれに魅力的だと思う」
「だよねだよね！　私の推しは神足陣矢！　一見優等生なんだけど実はワイルドだったりとか、あのギャップ本当に堪らない！　３巻収録の陣矢回神すぎるよね？　密室に主人公と２人きり！　露になる彼の本性と主人公の気持ち！　甘い口付け！」
　そこまで一気に語ったあとで、「でもね」と碧南はぐぐいと身を乗り出した。
「乙女ゲーだと、出てくるイケメン全部と恋することできるの！　一人一人の攻略対象ごとに異なる展開やエンディングが用意されてるから、目移りして困っちゃう！　そうだ、興味あるならこれなんかどう？」
　熱を帯びまくった声でそこまで一気に喋って、スマートフォンを取り出す碧南。
　アプリを起動してみせれば、「おお……！」とみいが感嘆の声を漏らす。
「絵が綺麗……！」
「だよね！　超美麗イラスト！　しかも、このイケメン全員、超いい声で喋るから！　フルボイス！」
「すごいな……」
「あとはね、こっちもおすすめだし、あっ、これも泣けた！　シナリオが最高で……」

「いやー、楽しかった！」
　少女漫画と乙女ゲームについて語りに語って、碧南は清々しい表情で言った。
「僕も、すごく楽しかった。ありがとう」
　と、応じるみいの目元も、ふうわりと柔らかい。