変わり者悪魔は少女漫画の夢を見る？｜リアクション

変わり者悪魔は少女漫画の夢を見る？

★Lesson２．全力でなりきってみよう！

「いーぬもりっ！」
　明るい声と共に何でも屋『いぬもり』の戸を潜ったのは、志波武道だ。
「……武道センパイ、今のって、挨拶？　それとも掛け声……？」
　と、お茶の用意を始めながら、犬杜初が神妙な面持ちで問う。
「初ちゃん、そんなクールな反応……！　折角チラシを見て、おすすめの漫画を持ってきたのに……！」
「えっ！　うそうそ、見せて！」
　すぐにいつもの調子に戻って、前のめり気味に食いつく初。
　と、武道は、自分が鞄から漫画を取り出すのをじっと見つめているもうひとりの少女の存在に気づいた。
「あ、この子、今回の依頼人の倉科みい。なんか、悪魔なんだって」
「……へ？」
　熱々のお茶を飲みつつ、かくかくしかじかと初から話を聞いて、「成る程」と武道は頷く。
（悪魔、だけど……頑張る子は、とことん応援したくなっちゃうよな）
　と、いうわけで。
「よーし！　色々とまかせろー！！　まずは、おすすめ漫画の紹介だぜぃ☆」
　俺が気に入ってるのはこれ！　と机に並べるは、女子高生探偵が主人公の推理漫画だ。
「あ、これ、ういも読んでる！　主人公がなんかこう、凛としててかっこいいやつ！」
「そうそう☆　殺人事件に遭遇しても臆さず真相に挑み！　危険な目に合っても持ち前の明るさで乗りきる！」
「超、超、引き込まれるのよね！」
「相棒役の幼馴染みの男の子とのかけあいもたのしい！」
「わかる！」
「ちなみに、俺的にはこの、探偵タッグと上司に板挟みの刑事さんがおすすめポイントかな！」
「うわー！　ういもめちゃくちゃ好き！　ヤバい、これはちょっと語りた……あ、」
　ここで初が、みいの存在をやっと思い出した。
「……と、ゆーわけで！」
　と、武道も気を取り直すように、ぽんっ！　と手を叩く。
「寝子高の女の子がいまここにいるから、形からはいるのもいいかもね！」
「え？　ういのこと？」
「もっちろん☆　初ちゃん、制服借りてもいーい？」
「あ、成る程！　みい、ちょっと着替えてこよ！」
「あっ、あと初ちゃんおすすめの学生ものの漫画も！」
「ラジャーです、武道センパイ！」

　暫くの後、店内に戻ったみいは、寝子高の女子制服を身に纏っていた。
「どうかな、みいちゃん？」
「……嬉しい。制服、憧れだったから」
　みいの言葉に、「なら良かったぁ！」と武道は白い歯を零す。
「じゃあ次は、漫画のキャラになりきってみようぜ！」
「キャラに……なりきる……？」
「そう☆　たとえば……」
　言いながら、武道は眼鏡を外し、髪をくしゃりとかき上げオールバックに仕上げた。
　そして、
「――こんな風にな」
　と、かんばせから笑みを消し、声音と眼差しに冷えた色を乗せてみせる。
　普段の武道とは対照的な、冷酷な男がそこにいた。
　その口元に――ふっ、と明るい笑みが燈る。

「……なーんてね☆　見た目や口調って、意外と侮れないんだぜぃ？」
「……やっばい。無駄にドキドキしてしまった……！」
　心臓を押さえる初、興味深げに瞳を瞬くみい。
「い、今の、僕もできるだろうか？」
「とにかくチャレンジしてみようぜ！　ええっと……そうだ、この子なんかどう？」
「わ、わかった！　天真爛漫で……笑顔は、ふわっとした感じで……」
「あ、決め台詞考えてみるのもいいかも！」
「武道センパイ、アイデアの宝庫すぎる！　あのね、そのキャラの台詞だったら、２巻の……」
　と、暫し盛り上がった末に、武道のスマートフォンで、みいが漫画のキャラになりきる姿を撮影することに。
「視線こっちで！　はい！　ポーズと共にずばっと！」
「っ……『一緒にスマイル、しよ？』」
　――パシャリ！
　写真の中のみいは、ややぎこちないながらも、ふんわりと微笑んでいる。
　その笑顔を確認しながら、
「……そーいや君、悪魔なんだよね」
　と、武道はぽそりと零した。
「うーん、色々なタイプがいるんだなぁ……」
「……やはり、変、なのだろうか」
「いや、そうじゃなくて、ちょっとね。周りに馬鹿にされた夢を、夢で終わらせず成し遂げた……、」
　俺は君を尊敬するよ、と告げた武道の声音の真摯さに、みいが小さく目を瞠る。
「そういう意味では、君は、既に立派なヒロインかもな」
「……あの、ありが……」
「あ、そーだ！　美味しそうに食べる姿とか素敵じゃない！？　少女漫画に必須シーンだよな！」
　ちょっと肉まんとかほか何か食べ物買ってくるっ！　と、ババッ！　と店の外へと飛び出す武道。
「……お礼はセンパイが帰ってきてからね、みい」
　と、瞬きのあと、初が、くすりと笑った。

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変わり者悪魔は少女漫画の夢を見る？

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