【演劇祭】劇団・鰤梨蒼人「招猫館殺人事件」｜リアクション

【演劇祭】劇団・鰤梨蒼人「招猫館殺人事件」

●もう１つの結末

　事件の真相が分かり、ステージの幕が下りる。しかし照明はそのままで、ふたたび幕があがる。出番の無くなった蒼留人は裏方に徹する。
　背景は屋敷から葬儀場に変わっている。そして舞とブリジットがベンチに腰掛けて話を始めた。

「まさか美野梨さんが犯人だったなんて……」

　舞は静かな口調でそう語り、空を仰ぐように天井を見上げる。

「私と蒼留人さんの仲は、メイドがお父様に色々と報告していたそうです。だから美野梨さんの告げ口は……意味のないことだったんです」
「そう……」
「それでも責任は感じますね」
「……ところで、舞。私、気になることがあるの」

　ブリジットは舞のほうを向きながらそう切り出した。

「なんですか？」
「美野梨さんの証言だと寅太郎氏は発作を起こした時に薬を飲んだ、と」
「そう言ってましたわね」
「どうしてその薬の効果が出なかったのかしら」
「え？」
「もしかするとその薬は偽物だったんじゃないかしら。だから寅太郎氏は発作で命を落とした」

　舞はブリジットの話を静かに聞いていたが、浮かんだ疑問を投げかける。

「それはつまり薬がすり替えられた、ということ？　証拠はあるの？」
「残念ながら無いわ。あくまで憶測に過ぎない」
「お父様と一緒に薬入れも火葬してしまいましたし……。考えすぎですよ、ブリジット」
「……そうね。確認する術もないし、この話は終わりにしましょう」
「ええ。あら、もうこんな時間。ごめんなさい、私はこれから蒼留人さんと美術館に行く約束があるので……」
「わかったわ。ごきげんよう、舞。お幸せにね」
「ごきげんよう、ブリジット」

　そう言い残して去っていく舞の背中をブリジットは見つめていた。その心境は彼女にしかわからない。
　ここで幕が降り、照明も落ちた。本当の終演を迎えて観客から拍手が起きた。観客の視線が完全に無くなったところで、ブリジットたちは、ほっと肩をなでおろした。

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