【演劇祭】劇団・鰤梨蒼人「招猫館殺人事件」｜リアクション

【演劇祭】劇団・鰤梨蒼人「招猫館殺人事件」

●開演間近

　演劇祭当日。開演が迫り、最後の確認が行われていた。
　蒼留人は唯一の男性ということもあり、荷物運びなどでブリジットに遠慮なくこき使われている。

（これも修行か？）

　彼は書生役だけでなく裏方も担当しているため、背景に使う大道具の確認や照明位置の調整など、やることは盛りだくさんだった。裏方なので大きく目立つわけではないが、かなり重要な働きをしている。

（この会に関係ない俺がここまで関わってるのが一番のミステリだよな）

　そんなことを思いながら、不足しているものがないか慎重に確かめる。その頃、美野梨や舞は自身が着る衣装を確認していた。

「綺麗な衣装ね。まるで本物の令嬢みたいだわ」
（ツッコミ待ちかしら？）

　舞の衣装は白を基調に華やかさを加えたようなデザインだった。対照的に美野梨の衣装は赤を基調にしているが、地味な印象を与えるデザインだ。

「美野梨さん、貴方も館の主人の娘では？　それにしては地味なような……」
「私はこれでいいの。私は舞さんの異母姉だけど令嬢ではないし。それにこの衣装は事件にも関わるから」

　正妻の娘ではなく、愛されない寂しさや悔しさをうまく表現したいと意気込む美野梨。その傍らでマーガレットはメイド服に袖を通す。

（なんでこの私がメイド役なんですか。しかし、舞さんに使用人の役などしてもらうわけにもいきませんし、仕方ありませんね……）
「お、マーガレット。お前、メイド服案外似合うな。」
「え？　そうですか？」
「ああ」

　一仕事終えてやってきた蒼留人は思ったことをそのまま口にした。マーガレットは自分の格好を改めて見ると、悪い気はしなかった。それぞれの準備を終えて、いよいよ『招猫館殺人事件』が始まろうとしていた。

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