【演劇祭】劇団・鰤梨蒼人「招猫館殺人事件」｜リアクション

【演劇祭】劇団・鰤梨蒼人「招猫館殺人事件」

●予想外の勧誘

　とある日のこと。
　放課後、マーガレット・ライカーと響蒼留人は雑談に興じていた。

「そういえば演劇祭が開かれるらしいな」
「そのようですね」

　マタタビック演劇フェスティバル。
　星ヶ丘にある『STARHILL Theater（スターヒル・シアター）』で行われる大々的なイベントだ。しかし演劇部でもないし、参加する気のない蒼留人は他人事のように語る。そこへブリジット・アーチャーがやってきて、挨拶をする。

「こんにちは」
「こんにちは、ブリジットさん」

　どうやらマーガレットの知り合いのようで、蒼留人も簡単な自己紹介をした。

「俺は響蒼留人です」
「蒼留人とお呼びしても？」
「ええ、構いませんよ」
「ときに蒼留人、演劇に興味はあるかしら？」
「はい？」
「実は今度の演劇フェスティバルに人手が足りなくて。それでスカウトを行っているの」

　先ほどマーガレットと話していた時は別世界の話だったのに、一瞬にして身近なものになろうとしていた。

（スカウト？　なんで俺が？）

　蒼留人は疑問符を頭に浮かべる。
　もしや姉のＢＬ仲間ではないかと警戒したが、男性は自分だけらしいのでその心配は無さそうだ。しかし演劇の経験なんてないし、未知の世界だ。考えあぐねていると、ブリジットが舞台の魅力などを交えつつ巧みに勧誘を続ける。結局、それに押し切られる形で手伝うことになってしまった。

（いつのまにか参加することになった……どうやらマーガレットより一枚上手のようだ……）

　ブリジットは蒼留人を『寝子島高校ミステリ研究会』の会合へ連れて行った。そこには神野美野梨や橘舞の姿もあった。もちろんマーガレットも一緒だ。そしてブリジットから各自へ台本が渡される。
　冒頭には配役やおおまかなあらすじが載っており、本編を含めてそれなりの厚みがあった。

「俺は書生か」
「私は令嬢ね……なんだか大役で不安だわ」
「舞は素で大丈夫よ」

　パラパラとめくりながら、話の内容をおおまかに把握する。どうやら昭和初期を舞台にしたミステリらしい。さらに蒼留人は裏方の仕事も兼任と書かれており、大変な日になるだろうと思った。

　全員がひととおり台本に目を通したところで、実際に体を動かしながら台詞を読んでみる。いきなり暗記はできないので片手に台本を持ち、それぞれの立ち位置を確かめる。そして強調したい部分の演出を再考したりといった話し合いに時間を費やした。

　はたしてどのような舞台になるのか。

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