【演劇祭】ＮＫ３-寝子高３年連合-　海賊奇譚｜リアクション

【演劇祭】ＮＫ３-寝子高３年連合-　海賊奇譚

★海賊奇譚～準備・練習編（２）～

「森篠、少し休むか？」
「……ええ、ごめんなさい。ちょっと休憩したら、復活するから」
　桐野正也の言葉に、森篠琳子はそう応じて、スポーツドリンクを取りに稽古場の隅に向かう。
　正也の息も弾んではいるが、琳子の方は、もう、Tシャツが汗でずくずくだ。
（立ち回りしつつ歌うのが、こんなに難しいなんて……）
　稽古用のTシャツの替えを持参すべきだったと思いながら、スポーツドリンクを喉に流す。
（稽古でこれだから、本番じゃどうなることか……）
　とは思うけれど、琳子、心が折れているわけではない。
　正也に言った通り、息が整い次第、稽古に復帰する気満々だ。
　ここでめげてちゃいけない、と、思っている。
　琳子が演じるのは、蛍という役だ。
　クールビューティーな、強い女の子。
　それでいて、蛍には、その強さに戸惑っている部分もあるように、琳子には感じられた。
（どこか、自分に重なる部分があるような気がするのよね）
　そんな思いを胸に沈めて、琳子は、ペットボトルのキャップを閉める。
「皆ー！　衣装、用意できたぜー！」
　と、宇佐見望月が稽古場にとび込んできたのは、その時だった。
　そのあとに、北里雅樹と呉井陽太も続く。
「お、望月、仕事が早えーな」
「正也ちゃん、褒めても衣装の写真しか出ねーぜー」
　つか、最近は和服もスゲーのあるんだな、と言いながら、スマートフォンをぽちぽちする望月。
「ほら、これ。スマホに送ってもらった画像」
　望月のスマートフォンの画面を、役者チームが覗き込む。
「本格的だな。どれもかっこいい」
「ほんとほんと！　もっちー、さっすがぁ☆」
　高梨煉が感嘆したように声を零し、志波武道は、望月と「イエーイ☆」とハイタッチ！
「今は現物ないけど、舞台リハで着てもらって微調整するから、よろしく！」
「頼もしいわね……」
　琳子の言葉に、望月はにっと白い歯を見せた。
「舞台を成功させるには、計画的に進めねーとな。今年もやります裏方業務！　的な？」
　生き生きとした望月の様子に、
（俺も益々気合い入れないとな）
　と、煉は内心に呟く。
　武道の誘いを受けて、劇団に参加することになった煉。演劇の経験はないが、
（高校生として皆と舞台を作るのはきっと最後だから、挑戦してみようと思ったんだ）
　という真っ直ぐな心持ちで、稽古に臨んでいる。
「あ、そーだ。雅樹ちゃんの大道具も順調らしいぜ」
　望月が、雅樹へと話を振って、皆の注目を集めた雅樹が、考え考え口を開いた。
「まあ、猫鳴館は建物がボロくて寮生で修繕する機会も多いから、自分でも結構修繕したりするしな」
　そのおかげでか知らないが大工仕事はある程度得意なのだと、雅樹。
　ちなみに、春の三寮祭の時はキラウェア火山を作って展示するなどもしている雅樹である。
　高所恐怖症であるが故に照明係などは担当できないが、

（俺も、やれるだけのことはするよ）
　と、雅樹は胸の内に零した。
「それじゃあ、オレは、ちょっとお先に失礼するねぃ」
　陽太の言葉に、首を傾ける正也。
「何だ？　呉井、何か用事か？」
「あ、用事っていうか、ほら、オレ達、舞台を下見してきた帰りでしょ？　だから、」

「それぞれのシーンにぴったりの音楽、早く探したくてうずうずしちゃって」
　少し照れたように頬を掻いて、陽太は稽古場を辞した。
「じゃあ、俺も大道具作りに戻ろうかな」
「俺様は、おっちゃんに、衣装の実物見せてもらってくるわ！」
　と、雅樹と望月もそれぞれの仕事に戻り、稽古場には、役者組が残る。
「……よっし！　森篠、さっきの続き、行けるか？」
「ええ。お願いするわ」
　と、正也と琳子は２人のシーンの練習を再開し、
「俺は、イメージトレーニングの続きに戻るか……」
「あ、れんちゃん、さっき台詞の練習もしてたよね？　良かったら、読み合わせしようぜぃ☆」
　と、煉と武道も、熱を入れて、台本の読み合わせを始めた。

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