夜歩き話　鏡歩き編｜リアクション

夜歩き話　鏡歩き編

　すっかり街が寝静まった夜中。ゆったりとした一人の時間を過ごしていた小山内海がふと窓から外を見てみるとそこにはいつもと違う光景が広がっていた。

（え、何だか外がすごいことになってる？）

　つい先刻降った雨で地面が濡れている。そして、所々に水たまりが出来ているのだが、その水たまりがまるで鏡のようになっているのだ。
　しかも、ただ鏡のようになっているのではない。その水鏡の中には何とも幻想的な光景が広がっているようなのだ。

（これ……もっと見て見たい。もっと近くで見たい）

　海はそう思うが早いか簡単な身支度をした後、いつもスケッチブック等を急いで手に取ってから外へと足を向けた。

（凄い……）

　スケッチブックを片手に外を探索している海は、広がる光景にただ心を奪われている。
　足元の水鏡が夜空を映していて、まるでそれは空を歩いてるかのような錯覚を海に与えていた。

　だが、ただ心を奪われているだけでなく町の交差点や川辺で夜空とそれを映す水鏡が含まれた風景をスケッチしていく。
　この光景を前にすっかり芸術家の血が騒いでしまっているのか、何枚完成させようとも海の筆が止まる事はない。寧ろ、もっともっとと言うかのようにそのスケッチのスピードは上がっていく。

（あれ？　今何かいた？）

　今度は水鏡の中を覗き込んで海がスケッチしていると、中で何かが動いたような。そんな気がした。
　海がジーと目を凝らす。すると、水鏡の向こうの夜空に何かが飛んでいるのが見えた。

（あれって……ドラゴン！？）

　再度の驚き。思わず海は自分の上空に広がる夜空を見上げるが、そこにはドラゴンの姿などはない。

（いない……？　もしかして、この水鏡はただ単に夜空を映しているわけじゃないの？）

　はっきりと確証があるわけではない。だけど、もしかしたらこの水鏡の中に広がるのは別世界なのかもしれないと海は思った。
　そう考えると、一層海の中にわくわくとした感情が沸き上がって来る。

　すると、今度はドラゴンだけでなくペガサス、巨大な鳥たちが飛んでいるのが見えてきた。
　海は再び今の感情のままに鉛筆を走らせる。水鏡をのぞき込んで見える向こうの世界の夜空をスケッチしていく。

　そうして一体どれだけの時間をスケッチに費やした事か。
　だが、海のスケッチの手はそれでも未だに止まらない――筈だったが、水鏡の向こうにひょっこりと顔が出て来た事で驚いて止まる事となった。

（わっ！）

　思わず海は驚いてしまったが、気を取り直して良く見てみればどうやら同い年くらいの女の子のようだ。
　どうやら向こうもまた驚いている様子を見ると、向こうからも海の事が見えているらしい。

（筆談通じるかな？）

　そう思いながら海は自分の名前と挨拶をスケッチブックに書いて出してみると、どうやら通じたようで向こうからも同じようにして名前を教えて貰う事が出来た。
　向こうはこちらとは違う世界だと思われるが、何故か言葉が理解出来ているのは不思議であったが今は気にしない事にしたようだ。

　その後、海は夜が明けるまで彼女とスケッチを見せたり、互いをスケッチし合ったりして異世界交流を楽しむ事となる。
　思いっきり徹夜をする事になるのだが、次の日が休みで良かったと安堵して帰宅の途に着く海の姿があるのであった。

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