【演劇祭】劇団ねこよろず　マスコット猫の秘密？｜リアクション

【演劇祭】劇団ねこよろず　マスコット猫の秘密？

○開幕

　そして演劇祭での本番当日がやってきた。
「どうしよう、どきどきしてきた……」
　ハタキを握り締めてつぶやいたまほろに、ののこが言った。
「大丈夫、おまじない教えてあげる！　手に『の』の字を書いて飲み込むといいんだって！」
「野々さん、それは『人』の字の間違いだと思いますが……」
　月の指摘にののこは頭をかいて舌を出す。
「ありゃ、そうだっけ」
「時間だぞ、位置について」
　最初は出番がない修が舞台袖から指示をする。

「次は、劇団ねこよろずによる『異世界でよろず屋やってスローライフのはずが闇の軍勢に襲われてます』です」
　幕が降りたままの舞台に、お姉さん（七夜あおい）が現れる。
「こんにちは、みなさん。みなさんは童話が好きですか？　赤ずきんやシンデレラ、いろんなお話がありますよね。そんな童話の登場人物が住んでいる異世界のお話です」
　観客席にいる子供達は、優しく話しかけてくれるお姉さんに興味を惹きつけられているようだ。
「ここは、とある階層構造の異世界１Ｆにあるよろず屋。店の名前はまだありません」
　幕が上がると、舞台にはお店と畑があり、異世界風の服装をした店員たちが働いていた。

　粗末な服を着て店の掃除をしているシンデレラ（遠野まほろ）。
　店の品物を並べる赤ずきんちゃん（常闇月）。
　帳簿を書いているグレーテル（恵御納夏朝）。
　キュートなきつね姿のごん（椿美咲紀）が畑を手入れしている。
「ごんぎつねさん、頑張ってるわね。少し休んだら？」
　シンデレラがねずみさんのぬいぐるみを抱いて、店の裏口から出て声をかける。
「シンデレラさん、ありがとう。ブドウができたところだよ。甘くておいしいよ」
　ごんぎつねは、笑顔でシンデレラにブドウを渡す。
「みんなも、はいどうぞ」
　舞台を降りたごんぎつねは、観客の子供達へブドウキャンディを配りだした。
　子供達は大喜びだ。
「かぼちゃもよく出来てるよ。かぼちゃで美味しいクッキー作ったらお店で売れるかな？」
　シンデレラに相談するごん。
「いいわね、ぜひ作りましょう」
「美味しいものを食べるとみんな笑顔になれる！」
　シンデレラの返事に、ごんはにっこりしながら言う。

「あ、グレーテルちゃん。ブドウをどうぞ」
　店から顔を覗かせたグレーテルにもごんはブドウを勧めるが。
「ありがとう……私はいいけど、お兄ちゃんにあげるね」
　一瞬見開きかけたグレーテルの目が伏せられ、無理に明るい声を上げる。
「グレーテルはあのお菓子の家の事件の後、お兄さんと幸せに暮らしていました。でもお菓子の家でのことを内心引きずっていて、お菓子を口にしないことにしていたのです」
　舞台脇のお姉さんが、子供にもわかりやすいように説明する。

「あ、もう一人のあかずきんちゃんが帰ってきました」
　その言葉と共に、舞台袖からあかずきんちゃん（野々ののこ）が現れる。
「お帰りなさい。おばあさんの様子はどうでした」
　もう一人の赤ずきんが尋ねるのは、ちょっとシュールだ。
「元気だったよ～。お見舞いも喜んでくれた。籠の中身、実はちょっと道中食べちゃった」
　てへ、と頭をかくののこあかずきん。
「困りましたね」
　と言う月赤ずきんは、ののこの後ろから現れた男（八神修）に目を留めた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、いいお店があると聞いてね。おや、そちらのお嬢さんもこの店に？　どうぞどうぞ」
「えっ？　私ですか？」
　男は笑顔で、脇に立っていたあおいの背を押し、一緒に店に入る。　

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