【星幽塔】第九階層　アクア・マルシェで豪遊？ツアー！｜リアクション

【星幽塔】第九階層　アクア・マルシェで豪遊？ツアー！

＞揺れ動く心と跳ねる水面

「ゴンドラって思ったより大きい」
「気を付けて乗ってね」
　黒白滴は、月原想花に差し伸べられた手を取りながらゴンドラに乗り込んだ。ゴンドリエーレだろう猫獣人は帽子をかぶりなおすと二人とも座ったのを確認し「では、行きますね」とゆっくり櫂を動かす。
　マルシェへと近づいていくと、ふわりふわりと花びらが降ってくる。二人が綺麗だとみていると、猫獣人はひげを振るわせ笑う。
「今の時期、『恋』の祭りが近いからね。そのムードを盛り上げるべく降らしたんだろうな」
　その話を聞き、想花は少しだけドキッ、とする。
　事実、滴と隣り合って座っているだけで胸がどきどきしてしまう。だが、想花は胸に痛みを覚えていた。彼女の脳裏に過るのは親友の姿。実は、その親友にも恋心を抱いている事を自覚している。
（なんてダメな奴なんだろ、自分）
　重いため息を吐いたとき、滴とゴンドリエーレが心配そうに自分を見ていることに気づいた。
「酔っちゃった？」
「一度、船を降りるか？」
「……大丈夫。考え事をしていただけ」
　想花は苦笑しつつも明るく振舞う。滴は「無理しないで」と言ってくれたが、ゴンドリエーレは「そうか」と何やら考えている様子だった。
　滴の横顔を見ながら、ため息を吐く。――怖いのだ。この気持ちを知られてしまうことが。表面上は隠せているようだが、もし、自分の気持ちを二人が知ってしまったら……？　心臓がきゅっ、となった気がして想花は思わず両肩を抱く。
　想花にとって、この気持ちは決して浮ついたものではない。本当に二人とも好きだからこそ、胸が痛み、苦しんでいる。
　顔を上げると、滴が興味深そうにマルシェを見ておりゴンドリエーレに何か聞いているようだった。ひとまずは、ここでの買い物を楽しもう、と想花は思考の海から意識を浮上させた。

「迷ってるんだったら、こいつはどうだい？」
　と、ゴンドリエーレが案内したのは色とりどりの宝石に似た何かが付いたアイテムの店。飴玉は宝石のように輝き、展示された武具やアイテムには宝石がついている。中でも気になったのが、アクアマリンのような色合いの飴だった。
　話を聞くと様々なフルーツの味を混ぜてあるらしい。
（後で滴さんと食べよう）
　想花は小瓶に一杯のキャンディーを購入すると、滴もまた色違いのキャンディーを買っているのが見えた。
「こっちはムーンストーンみたいだねぇ。ふふっ、クリームの味らしいよ？」
「ほんと？　後で交換しない？」
　滴と想花は飴の１つ１つが可愛い、としばらく見とれていた。……が、想花は一振りの剣に目がいった。まるで海の青を溶かし込んだような刃が、とても綺麗だ。透き通った青だが、刃先辺りにいくと色が微妙に薄くなっている。
「これは？　装飾品ぽいけど……」
「これはね、海石という宝石を使ったショートソードですよ。この石は薄くて丈夫で切れ味の良い刃物になるんです」
　星の力を通すことでより切れ味が増すらしい。試しに持ってみると、これが案外手になじむ。
（ちょっといいかも）
　気づけば、想花はそのショートソードを購入していた。

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