【星幽塔】第九階層　アクア・マルシェで豪遊？ツアー！｜リアクション

【星幽塔】第九階層　アクア・マルシェで豪遊？ツアー！

＞星幽塔の海で、あなたと二人

　水上桜は目の前に広がる光景に、どこか遠い目になっていた。
（まぁ、前だったら『またか、またフツウかっ！』なんて声をあげていたかも）
　そうならないのは慣れなのか、達観したのか……。
　それはさておき、今回は普段と少し違う。桜はちらり、と傍らの少年を見た。彼は滝沢　匠といい、桜の彼氏である。
「なぁ、これどうなってんだ？」
「うーん……」
　匠は、困惑しているがそれ以上に桜が困惑していた。
（まさか滝沢君も一緒に来るなんて考えてなかった。これ、どう説明したらいいのかなぁ……）
　桜はしばし考えたのだが、うまく説明できる自信がない。出たのは「多分夢じゃないかな……」という呟きだけ。
「ゆ、夢？」
「そう。これって夢の一種ってことで」
　困惑する匠の目を見れず、「挙動不審だよねぇ」とか考えながらいう桜であった。

　ゴンドラに気づいた２人は、「夢なんだし」と乗ってみることに。麦藁帽をかぶったゴンドリエーレは気さくな笑みをこぼし、二人を出迎える。
　ゴンドリエーレが「もうすぐ恋の祭が近いんで、普段よりロマンティックかもしれませんぜ」と言えば桜は僅かに目を見開く。そういえば、旅人へ老人がそんなことを言っていただろうか、と。
　よく見れば、風に乗って赤い花びらが舞い、遠くからセレナーデを思わせる旋律が聞こえる。
（そういえば、今回のアクア・マルシェ……ペア割りとかあるのかな？）
　ふと考えるが、すぐに苦笑し
「たまにはこういうムードのある場所でデートと言うのも悪くないかもね？」
　と、自然に表情を柔らかくして。匠はそんな桜に微笑んで頷いた。
「バレンタインみたいなものかな？　だったら、デートに丁度いいかもな」
「でしょ？」
　微笑む桜の頭をそっと撫で、匠は嬉し気に目を細めた。
　ゴンドラに揺られ、最初に向かったのは『ビスコッティロゼ』を取り扱うお店だった。バラの形に組み合わせたビスコッティを、琥珀色の飴で固めたそれは固いがなかなか美味しいとの事。
「そうだな、交換するか？」
「うん」
　匠に誘われ、それぞれ買ったものを交換する。匠から渡されたそれは花の香りがする飴で固められており、口にすると仄かにスミレの香りがした。匠に渡した物は、ほんのり桜色で……。匠は思わず「桜の香りがする気がする」と呟いた。
（！？　色が可愛くて選んだだけなんだけど……）
　思わず桜の耳が赤くなる。急に恥ずかしくなりながらも、匠の「うまい」という一言に胸がほわりと暖かくなった。
　ゆっくりとゴンドラでマルシェをめぐっていくうちに、賑やかな音楽が近づいてくる。よくみれば、複数のゴンドラに乗った演奏者たちが曲を披露していた。しかもムード満点の優しいメロディーだ。
（滝沢君、退屈していないかな……？）
　少し不安になって彼を見れば、瞳をちょっとキラキラさせていた。曲も聞いたことがない物。よく見れば、楽器も寝子島では見たことがない物もある。風変わりな光景故に退屈しないのかもしれない。
「まるで遊園地みたいだな、ここ。なんだろう、ちょっと懐かしい気持ちにもなっていた」
「そうなんだね」
　そんなことを言う匠を、桜はなんとなくかわいく思えて。しばし見つめ合いながらも、二人はほんのり甘いひと時を楽しんだ。

　その後、買い物で匠が興味を示したのは……でかいスパナのようなものだった。めちゃくちゃ目を輝かせ、店員の説明を聞く姿に桜は思わず乾いた笑いを零す（そして、ゴンドリエーレは帽子で顔を隠し、エルフのような耳だけを震わせていた）。
「それ、何につかうの……？」
「ん？　多分飾る」

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