【星幽塔】第九階層　アクア・マルシェで豪遊？ツアー！｜リアクション

【星幽塔】第九階層　アクア・マルシェで豪遊？ツアー！

＞甘酸っぱい二人のアクア・マルシェ

「おや、星幽塔かな？」
「そうみたいだね」
　ウォルター・Bの問いかけに、稲積柚春は笑顔で頷く。二人は青々とした海を見、開放感を覚えながら周囲を見渡した。テーマパークみたいだ、と言ったのはどちらだっただろうか？　二人はわくわくした様子で歩を進める。
（それにしても、今度は水の都……。国内旅行じゃなかなか体験出来ないね！）
　柚春は水面に浮かぶゴンドラ、そして海上の水面を見て表情を綻ばせていると己以上に傍らのウォルターの方がワクワクしているように見えた。
「お代はいらないらしいけど、観光アピールの一環かな？」
「そうかもしれないね。ここはお言葉に甘えようか」
「だったら遠慮するより、何か買って帰ってここが良い場所だったって話す方がいいね」
　二人はそう言い合いながらゴンドラに乗り込み、さっそくマルシェを楽しもうとゴンドリエーラに案内を頼む。柚春と同じぐらいの年齢だろう彼女は、こくりと頷いて櫂を動かし始めた。
　ゆっくり水上のマルシェで売られている物を眺めていると、ウォルターが普段より輝いた目をしている気がした。
（あまりに童心に返るようなら止めないといけないかな）
　柚春はそっと、彼の服の裾を引っ張って咳払いした。
「ごめん、ごめん。いろいろ興味深くてね」
「気持ちはわかるんだけどね」
　ウォルターが苦笑すれば、柚春は肩を竦める。そうしながらも、彼女は謎の老人が語る内容の事が気になった。
（恋の祭り、かぁ……）
　耳をすませば、華やかな音色。そして、ゴンドラでマルシェを楽しむ人々を観察してみるとどことなくカップルが多い気がする。
　気を取り直してゴンドリエーラへここいらで人気のお茶や香料を教えてもらうと、「柑橘系が最近の流行ですね」と彼女は教えてくれる。
「だったら、このフレバーティーとかどうかな？」
　ウォルターが一足先に試飲していたそれは、マンダリンの香りが豊かでなんとなく気に入った。

　しばらく買い物をしていた二人。だが、柚春の視線は少し離れた楽団に向いていて……。
「柚春、あっちの方が気になるのかい？」
　ウォルターの言葉に、彼女は小さく頷く。と、ゴンドリエーラは微笑んで「お連れしましょう」と櫂を動かした。
　色とりどりの花びらが舞い、楽団がムード満点な音楽を奏でる。この辺りは恋の祭りにふさわしい商品が並んでおり、中には恋人や夫婦で送り合うというビスコッティロゼを売る船も。そこで二人はレモンの香りがするそれを買った。
「本当は送り合うみたいだけど……、一緒に食べよう？」
「ふふっ、それもよさそうだね」
　柚春とウォルターは、１つのビスコッティロゼを半分にし食べさせ合う。ほんのり甘酸っぱい味わいの奥、レモンピールのほろ苦さがビスコッティに意外とマッチして。すこししっとりつつも歯ごたえはよく。
　このビスコッティロゼは職人曰く『愛する二人の結束』の象徴であるらしい。食べさせ合うという事は、「寄り添って生きましょう」という意味を持つようだ。
「まるでプロポーズのようだね」
　とウォルターが言えば、柚春はほんのりと頬を朱に染めて微笑む。
（そんな日が、早く来てほしいな）
　今はその時ではないかもしれない。だが、ウォルターと目を合わせると気持ちが通じた気がして。
「待ってるよ。……それとも、僕からしてほしい？」
　柚春の言葉を、ウォルターは擽ったそうな笑顔で「どうしようかな」というのだった。

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　アクア・マルシェの一日はこうして過ぎていく。
　寝子島からきた冒険者たちもまた、素敵な一日を過ごせたことだろう。
「楽しんでくれれば、なによりだよぉ」
　と、まったりした声が風に乗って聞こえたとか、聞こえなかったとか……。

（終）

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あとがき

担当マスター：菊華伴
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おそくなってもうしわけありません。菊華です。
今回は水上でおこなわれる市場『アクア・マルシェ』でのひとときをお送りしました。
バレンタインデーとホワイトデーの季節という事でカップル向けの話にできるようしましたがいかがだったでしょうか？

今回は謎のおじいちゃんがお代を出してくれたわけですが、それなりに顔の広い商人だと思っていただければ。
何かの機会にまただせたらいいな、と思っています。

星幽塔のシナリオが出せるうちは時折だしていこうと思っています。
また何かありましたら宜しくお願いします。

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