クリスマスを阻止！？　ハロウィンの逆襲｜リアクション

クリスマスを阻止！？　ハロウィンの逆襲

　掃除を終えた曖浜瑠樹は真っ先に教室を飛び出した。そのままの勢いで正門を抜けて家に向かう。
　――朝は時間がなくて、アドベントカレンダーを開けられなかったけどぉ、オレはあきらめないぞー。
　心の中で固く誓って角を曲がる。

　景色が一変した。そこに狂気を孕んだ笑い声が耳朶を打つ。
　一方を見ると赤や紫で覆われた大地にオレンジ色のカボチャがいた。ふわりと浮かび上がると声を張り上げた。
「クリスマスに浮かれる哀れな者達にハロウィンの素晴らしさを教えてやるのデス！　魂に刻み込んでやるのデス！　この世界で終わらないハロウィンに魅了されやがれ、なのデス！」
「そんなのダメだよぉ。みんなでなかよくが一番だよぉ」
「うるさいのデス！　ハロウィンが一番なのデス！」
　カボチャは丸い月に向かって飛んでいく。
　瑠樹は走りながら声を上げた。
「カボチャさん、みんなでなかよくだよぉー！」
「カボチャさんではないのデス！　ジャックオランタンなのデス！」
　ジャックオランタンは見えなくなった。丸い月は黒い目と口で笑って舌まで出した。
「びっくりだねぇ」
　のんびりした声は驚いているように見えない。
「あれぇ、ここはカボチャさんの世界、かなぁ？」
　ようやく世界の変異に気が付いた。不安はほとんど見られず、ほのぼのとした様子で見回す。その過程で自身の姿の変化にも目がいった。
　頭の上に二本の兎の耳が生えていた。白い綿毛のような服にオレンジ色のマントを羽織る。カボチャを模したような短パンの後ろには丸い尻尾まで付いていた。
「よくわからないけどぉ、気に入ったよー」
　肩に引っ掛けたトートバッグにはとんがり帽子を被ったラピちゃんが顔を出している。

「オレ、ウサギさんになったよぉ」
　笑顔が疑問を吹き飛ばす。
「あっちに行ってみよう」
　腕を大きく振って探検に乗り出した。
「鼻がひくひくするよぉ」
　前方に長方形のテーブルが見える。白いテーブルクロスの上には料理が並ぶ。黒っぽく揚げられたフライドチキンが山のように盛られている。側にはホールケーキが置かれ、大きなカボチャが載っていた。
「これ、食べてもいいのかなぁ」
　周囲を見ても人の姿がなかった。瑠樹は空に浮かぶ月に向かって叫んだ。
「カボチャさん、食べるよぉー！」
　口を閉じて耳を少し傾ける。すると声が返ってきた。
「ハロウィンを楽しめばいいのデス！」
　声は反響して至るところから聞こえた。瑠樹は方々に目を向けたものの、見つけることはできなかった。
「カボチャさんは、カクレンボの天才だねぇ。じゃあ、いただくよぉ」
　手を合わせるとフライドチキンを摘まんで一口にした。
「あふあふ、だほぉー」
　揚げ立ての熱さに苦戦した。
「ジューシーで、おいしいねぇ」
　立て続けに三個、胃袋に収めた。唇が艶やかに光る。目は隣のホールケーキに向かう。
「ナイフとフォークがあるねぇ」
　ケーキの一部を切り分けて小皿に載せた。更に一口分に切って口へ運ぶ。
「ひんやりして甘いねぇ。カボチャさん味だよぉ」
　夢中になって食べた。置いてあったナプキンで口を拭くと、そうだよぉ、と思い出したように言った。
「この世界を見て回るんだよぉ」
　瑠樹は手を合わせて、ごちそうさまぁ、と口にして歩き出した。
　放置されたような物が目に付く。何も飾られていないモミの木や大地に転がる味気ないリース。他には飴玉やチョコレート、三つ又の燭台は不気味さを演出した。
「ハロウィンだけ、ではないよねぇ。クリスマスのものが、どうしてあるのかなぁ」
　疑問を口にしながら瑠樹は足を進めた。

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