遊月会の誘い｜リアクション

遊月会の誘い

　森篠琳子は游月会へと妹の奏子と共にやって来ていた。
　普段は学校に通いながらバイトをしているのだが、本日はバイトのシフトが入っていない日であった為に妹と一緒に遊びに出かけているのだ。

　琳子がバイトをしているのは遊ぶ金欲しさ――というわけではない。彼女の家庭は母子家庭であり、母親が保険外交員として働いてはいるもののかなり台所事情が厳しいのだ。
　成績優秀であり本来であれば難関大学さえも狙るくらいだが、それでも進学は諦めざるを得ない家庭事情だ。

　現在は寝子島信用組合の就職試験を受けたばかりでその結果待ちをしている状態となっている。
　信用組合に受かるかどうかは不明だが、それでも来年の今頃は社会人として過ごしている可能性は高いと琳子は思っている。

　そうなると問題になってくるのはまだ小学生である妹の事であった。
　前述の通り母親も働いている為、暫くは妹に寂しい思いをさせてしまうかもしれない。出来るだけどうにかしたいとは思っているが、社会人一年目ともなるとどこまで余裕があるか解らない。
　だから、その前にこうして出来る事はしておこうと琳子は考えていた。

「奏子。人が多いから手、離さないようにね」
「うんっ」

　けして離さないように妹の手を握りながら、妹にも同じように離さないようにと注意をしておく。
　何せイベント中であるだけに人の多さは思わず呆れてしまうくらいだ。こんな中、うっかり迷子になんてなろうものならば面倒な事になる事は間違いない。

　そして、仲良く手を繋いで歩き申し込んだペアシートまで辿り着いた、のは良いのだが。どうにも周囲はカップルだらけなようである。
　少し遠くまで見てみれば家族連れと思わしき人達も利用しているのが見て取れるのだが、何故よりにもよって自分達の周りの状況がこれなのかと思わずにはいれない琳子。
　ちゃんと手続きはしているのだから問題はないのだが、ちょっと場違いかなと思ってしまうのは仕方のない事と言えるだろう。

「へぇ。どんな風になっているのかと思えばこんな感じになってるのね」
「美味しそー」

　このペアシートに来るまでに買っておいたオムライスとカルボナーラを取り出し、容器の蓋を開けてみれば熱々である事を証明する湯気の向こうに美味しそうな料理の姿を見る事が出来た。
　これらはただのオムライス、カルボナーラではなく月見に関連しているように工夫がされているものなのだ。
　例えば、カルボナーラならば上に乗っけている温泉卵を月に見たてているといったように。

　琳子は妹とその二つの料理を別け合って食べ、今度はデザートの番だ。
　デザートは妹にはお月見パフェ、琳子自身には月うさぎのおまんじゅうを買って来ている。
　
　妹と並んでペアシートに座り、仲良く食べながらプロジェクションマッピングの演出を眺める。
　その幻想的な光景に少し現実感が曖昧になる琳子。日常と非日常。その境界線はとても曖昧なものだ。しかし、隣に妹がいる事でけしてそれに溺れる事はない。
　だからこそ、暫しの間、琳子は普段の事は忘れてその情景を楽しむのであった。

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