もしも出会ってなかったら｜リアクション

もしも出会ってなかったら

●佐和崎紗月の場合
「……紗月ちゃん、紗月ちゃん！」
「……え？」
　誰かが自分の名前を呼ぶ声に、佐和崎紗月はハッと我に返った。
「……どうしたの？　ぼぅっとして。もうすぐ発売記念イベント始まるよ？」
「……発売記念、イベント？」
　まだ少し頭がボンヤリとしていて、状況が飲み込めない。
（何の発売記念イベントだろう……？　……というか、私なんでビキニ？）
　気がつくと、紗月はアクアブルーのきわどめのビキニを着ていた。
「ねぇ、本当に大丈夫？　僕が誰かわかる？　自分の名前は？　仕事は？」
　目の前の男性のうろたえぶりに、かえって紗月の頭に少しずつ冷静さが戻ってくる。
　今の自分の置かれている状況を思い出す。
「……大丈夫です。ちゃんとわかります。私はグラビアアイドルの佐和崎紗月。そして、あなたは私のマネージャーさん。これから始まるのはソフニャップさん協力の新作イメージＤＶＤの発売記念イベント、ですよね？」
　にっこりと笑いかけると、困り果てていた男性の顔に安堵の色が戻る。
「……よかった。もしかしたら、いつもの出番前の緊張で記憶喪失にでもなっちゃったのかと思ったよ」
　ほぅっと深い安堵の息を吐くマネージャー。
　そんな彼の顔を見ていると……。
（その記憶喪失というのは、あながち間違ってないかもしれません……）
　とは、言えなくなる紗月だった。
（……なんで、私はグラビアアイドルなんてやってるんだっけ……？　そんなの全然向いてないのに）
　紗月は、どちらかと言えば引っ込み思案で、いつもおどおどと周囲の顔色を窺っているタイプだ。
　テレビや雑誌などで眩しい水着姿を見せつけている天真爛漫そうな女の子達とは似ても似つかない。
　そう思っていたのだが……。
「じゃあ、登壇お願いしまーす」
「えっ……あっ……は、はいっ……！」
　いざ、イベントが始まってしまうと紗月は人が変わったように笑顔を振りまき、少しセクシー過ぎるのでは思うポージングのお願いや、キワドすぎる質問に対する当たり障りnightな受け答えも難なくこなしてみせた。はっきり言ってベテランセクシー女優の領域である。
（……わ、私、もしかしてこの仕事向いてるのかな？）
　あまりに沸く会場に、紗月は一瞬そんなことすら思ってしまった。
　感受性の強すぎる彼女はまわりのスタッフやカメラマンがどういうポーズや受け答えを期待し、その期待に応えることでどれだけ喜んでくれるのかがわかってしまうのだった。
　結局、ソフニャップでのDVDの撮影、週刊少年漫画雑誌のグラビア撮影と立て続けに仕事を終えて、家に帰る頃にはもうクタクタになっていた。
「はぁ……。理緒ちゃんも、今頃、こんな感じでグラビアアイドルとかやってるのかな……」
　ぽつり、と呟いてから、紗月はまたハッと我に返る。

「……あれ？　理緒ちゃんって、誰――？」