【星幽塔】第一階層　幻妖の森と怪鳥の巣｜リアクション

【星幽塔】第一階層　幻妖の森と怪鳥の巣

　鬱蒼とした森の中で、妙子・桜・ティオレの三人は討伐隊の面々に混じって草を掻き分けながら怪鳥の鳴き声がしないか耳を澄ました。その遥か上空では、グレッグがランドルとともに手がかりを探している。慎重な軌道のお陰か、怪鳥がグレッグに気付いた様子はない。森の中の討伐隊も自分を信じて進んでいた。
　その最中、桜の足に何かが当たる。木の枝や石に当たったにしては鈍い感触に、桜の視線は自然と足元に向かった。その先にあったものに桜は息を呑んだ。

「どうかしましたか？」
「これは……ひどいわね」

　小さな悲鳴を上げた桜に釣られて、ティオレと妙子も自然とそれを見る。それは苦悶の表情のまま固まった男で、伸ばした手の先には一口齧られた木の実が転がっている。ずいぶん前にここを訪れた旅人のようだ。その肉体は腐敗が進み、一部は白骨と化していた。

「これってここに生ってる……のですよね」
「食べない方がいいわね……たぶん」

　腐臭に顔を顰めながら、桜と妙子の二人は男の命を奪った木の実と、その頭上に生っている木の実を見比べてこう言う。

「妙子が弁当を持ってきてくれてよかったわ。水にも気を付けた方がいいわね」

　ティオレは頷くと、二人を促して先に進んだ。妙子は周囲の様子を見ながら地図を書き進めていく。討伐隊の男たちは時折、妙子のそれを見て進路を調整した。桜がきょろきょろと辺りを見回していると、ティオレが突然しゃがみ込む。

「どうしたの？」
「いえ……でもわかったわ。あっちに行ってみましょう」

　人間が食い荒らしたには大きい食べかすを、ヴォラティルのものと推測したティオレは、それを伝って討伐隊の面々を導いた。

　――巣があるって事は、子育て中で食い物が不足して襲ってきたとか……。

　一方その頃、大樹に張り巡らされた巣を発見したグレッグは、巣の内部を観察しながら思案する。

　――街の誰かが怪鳥の巣に近づいて反感を買って、そいつを探すために暴れてるって可能性がありそうなんだが……。

　彼の頭脳の中で、様々な可能性が浮いては消えた。グレッグは首を振って思考を断ち切り、下に広がる森を見る。ティオレたちも順調に進んでいるはずだ。そろそろ情報交換をしようと考えた彼は、下に降りるべくランドルの背を撫でた。

　――そのあたりもキッチリ確認しといた方が良さそうだな。

　が、その試みはぐぎゃあ、ぐぎゃあという鳴き声に阻まれる。グレッグが振り向くと、そこには――

「やっぱり……あっ」

　森の奥深く、陽光の届かないそこで、何かを確信したティオレの横を桜が駆けていく。ティオレの制止の手はするりと抜けて虚しく宙に投げ出される。慌てて追いかけようと踏み出した足は、桜の声によって加速した。

「巣よ！　巣が見つかったわ！」
「ありがとう桜！　気を付けて！」

　そう言った矢先に桜の横、怪鳥のくちばしが刺さる。桜は咄嗟に頭上に視線を移す。ふと気が付けば雲も突き抜けそうな大樹があった。桜・ティオレ・妙子の三人をはじめとした討伐隊は皆武器を構え、怪鳥の攻撃に備えた。

「クソッ！　気付きやがった！」

　吹き付ける強風に精一杯抗いつつ、グレッグはヴォラティルの爪から逃げ回る。彼を追うのは三体。巣は五つ。グレッグは髪を靡かせながら、視界の隅に二体の怪鳥を捉える。その怪鳥は森の中の何かと戦っているようだった。グレッグはその何かが何なのか確信すると、

「下も始まってるみてェだな……俺もやるしかねえ！」

　こう嘯いてはランドルを繰り、大きく旋回すると矢をつがえ、ヴォラティルに狙いを定めた。

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