何が起こるの？　ちょっと不思議ＤＡＹ！｜リアクション

何が起こるの？　ちょっと不思議ＤＡＹ！

　クッションに背を預けた姿勢を保ったままで、真辺伸幸はふわわとあくびをした。
　今日は一日、予定がない。
　元気なお日様も落ち着いて秋の香りがする時期になってきたなぁ、なんて思う今日この頃、

「ふふー。このまま、お部屋でごろごろしてても良いのだけれどねぇ」
　と、本を読みながら、のんびりとそんなことを思う伸幸だ。
　けれども、窓の外はいい天気。
「んー……んー……ん」
　と思案しながら、伸幸は、窓の向こうに吹くそよ風に目を凝らした。
　そうして、瞬き一つ。
「……うん。ちょっとお散歩に行くのもいいねぇ」
　自分の言葉に頷いた刹那――突然、窓がバタンと開いた。
　吹き付ける風に、寝起きのままの髪が遊ばれる。
「わ、わわ」
　轟と唸る風の勢いに堪らず目を瞑れば、ふわり、体が宙に浮いたような心地がした。

※

「――あれやあ」
　次に瞼を開いた時、伸幸はそう零して、くるりと目を丸くした。
　目前に広がるは、色とりどりの花畑。
　ぽかぽかと陽光が射していて、柔らかな風に、辺りの木々がさやさやと鳴っている。
「ぬ？　夢、かなぁ？」
　けれど、陽射しはぽかぽかと心地よく、漂う花の香は甘く芳しい。
（夢にしては、リアルな感じなのよー）
　そこまで考えて、ふと、右腕の重みに気づく。
　見れば、知らない間に腕にバスケットが提げられていて、その中には、
「……ぶどうジュースと焼き菓子、だねぇ」
　それで、成る程、と思った。
「……赤ずきんちゃん？」
　返事はないが、恐らく、正解だろう。
　本来なら、ジュースではなくぶどう酒が入っているはずだけど、誤差の範囲内だ。たぶん。
　それよりも、と、伸幸はこてんと首を傾けた。
「俺、おばあちゃんの家の場所、知らないんだけどねぇ」
　ついでに、お母さんのいるおうちもわからない。
　少し考えて、考えているうちに、ぽかぽか陽気にうとうとしてきて、
　――ぽふん。
　伸幸は、お花を潰してしまわないように、草の上へと寝転んだ。
　緑の匂いが気持ちよく、瞼がゆっくりと下りてくる。
（……あ。お菓子、食べてみたらよかったのよー）
　なんて思った時には、伸幸はもう、夢の世界への道筋を辿っていくところだった。

※

「……ぬ」
　気付くと伸幸は、自室の床の上に横になっていた。
　むくり、身を起こす。
　顔を向けて確かめれば、窓はぴたりと閉じられていて、けれど、
「やあ、あのバスケットだねぇ」
　という具合で、傍らには、ぶどうジュースと焼き菓子の入ったあのバスケットが転がっていた。
　時計を見る。時間は、殆ど経っていない。
　ぬん！　と、伸幸はちょっぴり気合を入れて立ち上がった。
　ぐーっと伸びをしながら、風に乱れた髪を少し整えよう、と決める。
　軽く上着を羽織ったら、それで準備は万端だ。
「不思議なバスケットも、忘れないようにしなくちゃだねぇ」
　いつの間にか、お店に行こう、という気持ちになっていた。
　硝子を透かした陽射しが、ほかほかぬくぬく、気持ちの良い時期だから。
　それに、寄りかかれる場所で丸まって、のんびり本を読むのもきっと素敵。それから、
（赤ずきんちゃんの絵本も、あったかもしれないのよー）
　そんなことを思って、伸幸はへにゃりと笑う。
（今日も良い日になるといいなぁ、なんてー）
　窓の向こうで、小鳥が伸幸を誘うように、ぴちちと鳴いた。

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