【星幽塔】第二階層　水道橋で流しそうめん｜リアクション

【星幽塔】第二階層　水道橋で流しそうめん

　―――と。
　水路橋方面でひときわ大きな水音が上がった。
「水路橋方面にて、敵影確認！　デフコン１発令、通常兵器使用許可、最高度防衛体制、戦略防衛軍団は滑走路待機と対空待機なの」
「ステラ、そんなのがあったのか？」
　適当なコールサインを叫ぶステラに、冷たい視線を送るアヴィケンナ。
「水路橋には、すでに寝子島の人たちが先遣部隊として向かっているはずだけど」
　その時、ずいと人混みをかき分けて現れる二つの影があった。
「あ、りりえうしゃん、うきわらー」
　コトコが声を上げる。
「大事な文化交流の場を、邪魔させるわけにはいかないのです」
　いつの間にか浮き輪を装着し、水戦モードのリリエル。
「虎の子メリィも、みんなのために協力するよ！」
　流しそうめんを心ゆくまで楽しむべく、いつにもまして勇気凜々のメリィ。
「じゅんびばっちりれすにぇ、いくれす！」
　星幽塔名物のツープラトンに、年若いながらも水辺棲みゆえに水はお手のもののコトコ。
　頼もしい救援が、一路、救援に向かう！

「俺、このスライムなんとかしたら、辛めのタレでたべるのに参戦するんだ･･････」
　志波武道も気迫十分。
「胡麻豆乳ラー油とか、なんか面白いピリ辛の付けタレの用意おねがいしまっす！」
　いってきまーす、と帰還後の準備すら周到に、戦場へ向かう。

　――さまざまな文化が行き交う、星幽塔。
　古来より、文化のすれ違いは齟齬を生み、時に悲劇を巻き起こしてきた。
　凄惨な戦いを生み、拭えぬ悲しみが残された。
　同じ過ちを繰り返してはならない。
　だが、そうは言っても、ふたつの文化が衝突するときは、誤解は避けられない。
　その悲劇の犠牲者は、いつだって存在するのだ。

（ソー・メンとは、いったい何なのでしょう･･････）
　ユリーカ・ナントカ嬢も、そのような悲劇の渦中の人物であった。
　そうめんとはなにか知らぬ彼女、なんの運命の采配か知らぬ、普通の流しそうめんコーナーをつついっと抜けて、やってきたのは水路橋であった。
「確か、このあたりで流しそうめんというのをやっていると、聞いたのですが･･････」
　そうめんというのを、彼女は知らない。
　昔の本で調べた所「双面」という言葉が現れてきた。
　二つの顔を持つ神。
　破壊と創造、その両方を司る鬼の神。
（なにか、おそろしい祝祭なのでしょうか）
　魔女のようなお姫様、お姫様のような魔女と呼ばれるユリーカ。二面性は、彼女の本質に深く関わる。
　ソー・メンが、光と闇の交錯する祝祭ならば、自分も参加しなければならない･･････。
　そうしたちいさな希望（と、大いなる勘違い）を抱いて第二階層までやってきた。
　そんなユリーカが木陰で目にしたのは、水上桜の姿だった。

　――第二階層の水路橋に、モンスターが現れた。

　そのような報を受けて、桜はさっそく準備を整え、はせ参じた。
　弓手としてその名も高き彼女、敵の正体はよくわからないが、抜かりはない。
　ブーツと手袋を手際よく装着し、弓弦を念入りに確かめる。
　燦と降り注ぐ月光の元、クロスボウを構えて凜然とした顔を向ける彼女は、物語の中の貴公子のようであった。

　残念ながら、彼女もこれが「流しそうめん会場」だとは知らない。
　彼女もまた、誤解の犠牲者。

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