【星幽塔】第二階層　水道橋で流しそうめん｜リアクション

【星幽塔】第二階層　水道橋で流しそうめん

　時間は少し戻る。
　誘われるように、水路に現れたユリーカ。
　さまようように歩くうちに出くわしたのは、迫り来るなだれそうめんに向けて、虎視眈々と準備する一同。
（こ、これが、ソー・メン･･････！）
　ユリーカは言葉を失う。
　一同の身に纏う、きらびやかな衣装。
　寝子島で見ることのない、これはまるで中世ヨーロッパの装いそのものではないか。
（なんて本格的――）
　仮装で歴史上の人物になりかわる祭りは、世にすくなくはない。
　だがそれらは、実用とはほど遠い美術品のような衣装を、当時とは違った流儀で身に纏う、いってみれば偽物の祭りなのだ。
　しかし、彼らの紛争は、あたかも戦闘に赴くもののように、隙がなく本格的。
　こんなに気合いの入ったお祭りが、存在するのだろうか。
　やらせの祭りが横行する昨今、この本格派は信じられないものだった。
「皆さん、とても華やかな衣装を身にまとっていらっしゃいますね･･････。
　――そういうしきたりなのでしょうか」
　そういえば先刻出会った美貌の弓手も、美麗な衣装に身を包んでいた。
　ソー・メンの祭り、あなどれない･･････。
　と、
「そうめんが来たー！」
　誰かの絶叫。

（ソーメン？）
　続いて巨大なそうめんの奔流が、一同に襲いかかる！
　まるで龍のように全身をうねらせるそうめんを、あるいは武器で、あるいは魔術で、一同は粉砕していく。
　切り刻まれたそうめんは、そのまま掬って、橋桁の上で賞味。
　面倒になった連中の中には、タレと箸片手にそうめんに突っ込んで、半ば飲まれるようにしてそうめんをもぎ取る。
（なるほど･･････ソーメンとは、こうして捕らえて食べるものなんですね･･････）
　想像を絶する祭りの勇壮さに、ユリーカは自然と興奮させられる。
　食うか食われるか。
　果敢につっこんだ勇者だけが、そうめんをもぎ取って、食べることができる。
　勇者のみが獲得できるトロフィー･･････それがそうめんなのだ。
「微力ながら･･････お手伝いいたします！」
　満身に力をみなぎらせ、果敢に飛び出すユリーカ。
　祝祭は加熱すればするほど、生贄を欲するようになる。
　祭りのあとは、行方不明者がかならず出ると言われる。
　それでも、危険な祭りの渦のなかに、ユリーカは躍り出ずにはいられなかった。
「とあーっ！」
　雄叫びをあげて、そうめんの波頭を、おたまでぽこぽこと殴る。
　えいえい、と一生懸命そうめんをたたき、素手でそうめんをむしり取る。
「崩れるぞ！　離れろ」
　修の指示に従い、一同がそうめんから離れる。
　――すごいな。大したものだ。
　誰かからかけられた言葉に、ユリーカはすっかり気を良くする。
「じゃあ、みなさんと一緒に食べます！」
　ユリーカの明るい声に、はいっと素麺つゆが渡される。
「えっと、血抜きはしなくていいんですの？」
　――そうめんの血抜きって、何だ？
「あら･･････血抜きはしなくていいんですか。なるほどそれは手軽ですねえ･･････」
　おかしなところでしみじみ感心して、
「夏の風物詩と言われるのも納得です」
　少しづつ掬って、品良くすすり込む。
　――また、そうめんがくるぞ！
　あらあらと、食べさしのそうめんを傍らにおいて、お玉を構えて走りだすユリーカ、すっかりそうめん撃退部隊の一員である。