花の香りに願いをのせて｜リアクション

花の香りに願いをのせて

　皆で手分けして抜いた雑草や種別に分別されたゴミは、かき集めてみると二人いれば運べそうな量だった。
　なんとか一人で持てる量かもしれないと、ヒューは一人で運ぼうとしたが、当然水樹がそれを許すはずもなく……二人でゴミを捨てに行き、掃除チームはそのまま解散する流れとなった。
「花壇、綺麗になって良かったね」
「あんなのを見かけて無視なんてしてたら、夢見が悪かっただろうし。手伝えて満足よ」
「最後まで手伝って、手は平気？　こんな重労働までして」
　多少の赤みや怪我はメイクで隠せるとはいえ、モデルなのだ。指の先まで扱いを疎かにするわけにはいかない。
　水樹はしっかりはめていた手袋を外し、なんでもないと言いたげに手をひらひらさせる。
　それよりも、日焼け止めも塗り直さなければ……と袖口辺りが焼けてないか心配していると、ヒューに恭しく左手を取られた。
「だから、怪我なんて……して、な」
　そっと触れる、ヒューの唇。それも薬指の付け根になんて意味深な場所だから、水樹はぶわっと熱くなるのを感じた。
「うん、綺麗なままで良かった」
　いつもは控えめなヒューが、どうしたのだろう。ただただ慈しむような視線が恥ずかしくて、顔を俯き逸してもじっと近くで見つめらていることがわかる。同じ身長なのはこういう時に恨めしい。
「……まだ一人前を名乗るには未熟だけど、ちゃんと胸を張って伝えたいことがあるから」

　鐘に願わなくても、不安にならない幸せを。鍵で結ばなくても、解けない絆を。
　優しい口づけを爪先まで何度か繰り返していると、ぷるぷると震えるように様子を伺っている水樹と目が合い、我に返ったようにヒューは手を離した。
「ごめん……っ！　その、今すぐどうとかじゃなくて、まだ何も用意してないし」
　『まだ』という言葉に、過剰な期待を寄せてしまう水樹にとっては逆効果だったようで、これでもかとばかりに顔を赤らめるものだから、ヒューの顔も移ったように赤くなる。
　どんな話題で切り抜けよう。視線を彷徨わすヒューは、点々と続く水に濡れた猫の足跡を見つけた。
（猫……僕が気にしていたのは、ルリマツリの小さな情熱――と思われたか？）
　人は少ないけれど、ゴミ置き場の近くでなんて格好がつかない。もっとも、漂うのは土草の香りで、花壇いじりをしていた自分たちには染み付いてしまっているかもしれないが、それでもどうにかならなかったものか。
「南京錠にお礼を言わなくても、伝わってるみたいね」

　まだほんのり赤い顔をした水樹が、南京錠の柵があったあたりを見上げて呟いた。
「どうして探しているのか、そういえば聞いてなかったな」
「お礼と、これ以上の良縁は大丈夫って伝えて……このままヒューとのことを見守っててほしいって」
　あれこれ縁を持ってこられても困る。そう苦笑しつつ、鐘に願った、二人の未来へ思いを馳せる。
　本土と寝子島との行き来ですれ違うこともあるけれど、ヒューが何かを準備してくれたなら、少しでも一緒にいる時間が増えるだろうか。例えば、同じ鍵を持てたりすれば。
「あのね、ヒュー……」
　顔を赤く染めながら、水樹は初恋相手に告白するかのような声を絞り出した。

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