廃墟だなんて言わせない！　最新★九夜山のVR遊園地｜リアクション

廃墟だなんて言わせない！　最新★九夜山のVR遊園地

　洋館の地下室だった研究室から、何かの実験をしそうな広間に辿り着いた響タルトは、盛大に迷っていた。
　ステージの雰囲気が変わったので、後半も近いと思ったものの出口もお約束のボスも現れない。

「おかしいなぁ～、また行き止まりだ」
「んもぉ～、しっかりして！　あたし、こんな所で死にたくないわよ？」

　偶然、舞台演出の参考になればと遊園地へ訪れていた富士山権蔵に、助けが必要なのだと熱弁して協力プレイをお願いしたタルトだが、権蔵はゾンビを怖がって率先して戦いはしなかった。
　しかし、その怖がり方にはどこか余裕があって、ゾンビを怖がって手を振り回すと稀に攻撃も当たるし、順調にここまでクリアできたので、戦えないこと自体は問題ではない。

「フジコ先生はモンスターみたいだから、きっと狙われないよ」
「んんっ……なんですって、響ちゃん？」

　おかげで、何度びっくりして武器を向けてしまったか。
　ゾンビに囲まれたと思ったら先生だったりで、タルトは意外な所で疲弊し始めていた。
　そんなことをハッキリ告げてしまうと、普段温厚な先生がどう怒るかわからないので、聞かなかったことにしてくれている間に、タルトは濁すように笑うことにする。

「このボタンはしかけがありそう！　フジコ先生はどう思う？」

　怪しいまでの行き止まりに、三色に光るスイッチ。
　どう見ても「何か起こります」と言わんばかりの広間だ。

「それ、さっき触って大量の蜘蛛に追いかけられたスイッチじゃない？」
「そ、そうだっけ？」
「ゾンビが出てきたのは向こうの黄色、壁に潰されるんじゃないかって思ったのは、あっちの青。そこの赤は間違いなく蜘蛛ね」

　スラスラと仕掛けを答えてくれる権蔵に頭が下がる。
　ゴーグルでは現在地を示してもくれず、どこも似た構造をして見分けがつかないアトラクション内では、忘れっぽさに拍車をかけて驚くこともままあり、攻略に手こずっている。

「ええと……他に道が無いとしたら、このスイッチを絶対触るってことだから……その時、別の出入り口が動いたりしたのかな」
「どうかしらね。さすがにあたしも覚えがないわ」
「じゃあ、次は何かが動く音や風向きに注意しなきゃだね！」
「仕方ないわねぇ、あたしも少し気を配ろうかしら……右側は任せたわよ」

　触るアクションは、近接武器をかざすことで行われる。タルトは「よし」と覚悟を決めてスイッチに大きなGペンを向けた。

「……ゾンビ、呼ぶよっ！」

　カチッと乾いた音とともに、囲んでいた鏡の一つが下へとスライドし、ゾンビが３体。その奥には確かに小部屋は見えるが、奥に続いているかまではわからなかった。

（遠距離用の絵の具ミサイルを構えて、右側の異変を探さなきゃ）

　相変わらず、権蔵は余裕のある叫び声をあげながら、ナイフを振り回している。
　と、横目で確認して安心している場合ではない。早く出口を探さなければ、権蔵はもっと危険な目に遭う。

（まさか、先生が僕に右側を任せたのって、左にゾンビが出るからじゃ……）

　仕掛けを覚えていた権蔵なら、ありえる話だ。そんなことを考え始めると焦りが生まれ、タルトは余計に異変を見つけられない。我に返ったのは、どこからかコツコツとゾンビではない足音が近づいてくるのに気づいてからだ。

（僕は一体もゾンビを倒してない……さすがに、ここに新手がきたらマズイかもっ！）

　一旦、ゾンビから照準を外し音のする方へと絵の具ミサイルを構える。
　それを向けられた人物は、薄明かりの中でにやりと笑った。

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