廃墟だなんて言わせない！　最新★九夜山のVR遊園地｜リアクション

廃墟だなんて言わせない！　最新★九夜山のVR遊園地

「バーチャルリアリティ、ねぇ」

　春に人目を憚るように訪れた寝子島イリュージョンランドが、ゴーグルの向こう側で輝いている。
　ジェットコースターのカプセルに乗り込んだ城山水樹は、美麗な映像に感心はもったものの、ただそれだけだった。
　忙しい合間縫ってのデートなのに、隣に座っているはずのヒュー・ヒューバートが、画面越しにしか見られないだなんてあんまりだ。
　いや、座席にしっかりと固定されているこのアトラクションでは、隣の様子を窺うこともままならない。
　ゴーグルのピントを確認し、安全バーのロックを確認し。カプセルに乗り込んでもなかなかアトラクションは動かないので、水樹は「映像に合わせて座席が揺れるくらいで大仰なことだ――」と思いかけていた。
　その時、座席は緩やかな角度を保ってカタンカタンと揺れ始める。

「ヒュー。写真を撮った桜、見つけられた？」
「ううん、まだ。せめて桜が咲いていてくれたらね」

　上空から見下ろせば、どれが桜の木かすらわからない。
　キラキラと反射する湖、雄大に空をまわる観覧車、カラフルな小花のような風船の束。山の上に作られた遊園地だということが実感できるくらいに、肌を撫でる風。
　景色を見ることに夢中になっていると、今までと違った音でカタンッと大きく響いた。それを認識する頃には、コースターはレールに沿って森を駆け抜けていく。

「……きゃあああっ！」

　怖くはない。ただの様式美というか、爽快感を求めての叫び声だ。
　右に左に、遊園地の外周を巡るようにコースターは走り続ける。映像とわかっていても、その疾走感は清々しい。
　しかし、レールは段々と錆びていく。まるで今のイリュージョンランドのように、蔦が絡み朽ち果ててしまいそうなレールを、コースタはガタガタと水樹たちを振り落とさん勢いで突き進む。

「え、嘘、レールが……！」

　ない。
　とうとう折れたレールの上から飛び降り、文字通りコースターは森を駆け抜ける。
　木々を抜け、土手を滑り、いつしか渓流まで辿り着き、豪快な水しぶきとともに着水した。

「きゃあっ！　冷た……ヒュー、これＶＲよね？　大丈夫よね？」
「こんな凄いコース、僕だってＶＲじゃなきゃ嫌だよ」

　ゆるやかな川に流され、やっとスピードも落ち着いてきた。
　ようやくコースターが停止するのだと思った水樹は、ヒューの声を聞いて安堵の息を吐いたのだが。

「待って。……水樹、耳をすまして」
「何？　もう終わりじゃ――」

　ドドドド……なんだか嫌な水音が近づいてくる。
　広い川で、こんな効果音は、あそこしかない。

「嘘でしょ!?　ヒュー、ヒューってば！」

　あんまりにあんまりな時は、非常ボタンがあると教えてくれたけど、聞き返すより先にコースターは落下してしまいそうだ。

「大丈夫、離さないから」

　肘下だけをなんとか動かし、ヒューは水樹の手に自分の手を添える。
　映画のように抱きしめてあげたいのは山々だけれど、これが今の精一杯だ。

「ヒュー……」
「あれ、もしかして泣いてた？」
「な、泣いてなんか……っきゃああああ!?　ヒュー！」

　流れが早くなり、岩にぶつかってはくるくるとまわりながらコースターは滝へ吸い込まれていく。
　滝はとても高く、先が見えない。まるでブラックホールに吸い込まれているように、水は真っ暗な空間に向かって降り注いでいた。
　レールのない、予測できない道はこんなに怖いだなんて。
　水しぶきが跳ねるのも風の匂いも作り物のはずなのに、簡単に想像してしまうから余計にリアリティがましてしまう。
　水樹はぎゅっと拳を握って耐えるが、それでもヒューは優しく手を握ってくれていた。
　結局、最後まで「泣いてない」と強く突っぱねることの出来なかった水樹は、降車後も涙ぐみながらヒューへしがみついたまま。
　珍しい水樹の様子に庇護欲をかきたてらながら、ヒューは優しく小休憩と気分転換のアトラクションを提案するのだった。

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