サマー☆部活動のお時間です！　～文化部編～｜リアクション

サマー☆部活動のお時間です！　～文化部編～

●主役と脇役

　とある夏の日。
　恵御納夏朝は演劇部の活動のために寝子島高校へやってきた。教室のひとつを借りて柔軟運動、発声練習、演技練習など、普段どおりに練習をこなしていく。

（新１年生の皆も少しずつ慣れてきてるかな）

　自分が１年生だった頃のことを思い出しながら、その様子を眺めている。当時２年生や３年生の先輩たちの声量に圧倒されたり、外郎売の存在を知ったり。今度は自分が先輩になったので、そういった思い出も参考に教えている。

（小道具などの手入れ方法も少しずつ教えていければ……）

　１つ１つ丁寧に練習メニューをこなしながら、夏朝はこれからのことを考えていた。それぞれの課題と向き合いながら練習は進んでいく。目いっぱい体と喉を使ったところで、一旦休憩を挟む。
　休憩時間になると夏朝をはじめ、部員たちはリラックスした様子で会話に花を咲かせる。

「皆は……どんな役になりたいのかな？」

　夏朝は興味を持って尋ねてみる。部員によって考え方が違うのは面白い。いつか主役をやりたいという子もいれば、脇役でも印象に残る演技がしたいという子もいる。

「先輩はどんな役がいいですか？」

　後輩からの無邪気な質問。夏朝は少し考えてから答えた。

「僕は……脇役か裏方に回っておこうかな、って。今までも脇役で頑張らせてもらったし……」

　後輩は夏朝の言い分に一応納得したようだが、少し不思議そうな顔をした。きっと主役を目指すというのが後輩のなかにあるからだろう。
　夏朝は演劇部のメンバーに内緒にしていることがある。それは彼女個人で抱え持った事情――とある事件の後遺症のことだ。演劇中に必ず出るとは限らないが、夏朝は万が一発症したら怖いと感じている。

（……もう演劇上の主役になることは、ないと思う）
（……でも、皆は違う。これからどんな役を演じるかは、彼ら次第だ）

　普通の範囲でも色んなことがあって、時には思い通りにならないこともあるかもしれない。

(それでも……皆に、演劇を、部活を……寝子高や寝子島の生活を、楽しんでいってほしい)

「そろそろ再開しよっか」

　蝉の鳴く音が練習場所に響く。今日もまだまだ暑くて、室内練習でも結構な汗をかく。部活が終わると、夏朝は１人１本ずつ飲み物を奢った。

｢……今日だけ特別だから、ね？」

このページにイラストを設定する