【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【フィナーレ！　津止教頭＆樋口先生ライブ】１

　始まったころまだ僅かに明るさを残していた空は、星々が散りばめられた深い闇色に代わっていた。
　御巫時子は、五十嵐尚輝先生の大学院時代の先輩で、ちかごろ寝子島に居を移し、寝子島中学校の臨時教師になるという今道芽衣子を誘って、ライブ会場にやってきた。この年上のサバサバした女性とは尚輝先生を通じて何度も会ったことがあるが、夜に会うのは初めてである。
　会場はオールスタンディング。
　ステージ正面の良い場所をとり、ライブに登場する先生方について簡単に芽衣子に説明する。
「なかなか破天荒な学校だね。でもこういうの、好きだな」
「ふふ。わくわくしますね……」
　わあっと歓声が上がる。
　寝子高夜市のラストを飾る、校庭の特設ステージでのライブの開幕だ。
　スポットライトの当たるステージに現れたのは、和風の衣装に身を包んだ教頭の津止孝道先生と、３年６組担任の樋口弥生先生。
　ベベン！
　かき鳴らされた琵琶の音は、ハードロックな音色。
　スタンドマイクを片手で握った弥生先生のいきなりのシャウト。
「みんなーっ！　真夏の夜を熱く燃え上がらせるわよっ！」
　観客のボルテージは早くも最高潮。
　津止教頭先生が琵琶、弥生先生がボーカルを務める、今宵限りのスペシャルセッション。

　曲は、寝子高校歌、琵琶ロックアレンジバージョンだ！

♪　陽光そそぐ学び舎に
　　我らを育む寝子ヶ浜の風
　　また旅人が耳を澄ませば
　　波音安らかに聞こえん
　　自由な日々（ねこじまメモリーズ）寝子島高校　（べべん♪）　寝子島高校　（べべん♪）

♪　諸星のぞむ学び舎は
　　九夜山の尾にてうちたてられん
　　たとえさざ波起こりても
　　ともに明日へと歩まん
　　絆は固く（ねこじまジャスティス）寝子島高校　寝子島高校　（べべべべーん♪）　
　

「孝道先生の琵琶とバンドは意外と合うんですね……演奏も歌も迫力があって引き込まれます」
　時子はそう思いながら、ちらりと芽衣子を見遣る。
　アメリカ帰りの芽衣子はノリノリで拳を振り、楽しんでいる。
（良かった……楽しそうです）

　シオ・レイゼルオークと白石妙子は、前の方で並んでライブを鑑賞していた。
「ライブ……久しぶりです。昔は旦那に連れられて行ったけど」
　妙子は、わぁ、と両手を口元に当てて感激する。
「琵琶もボーカルも先生らしいよ。教頭先生の弁天姿、話に聞いてたけどね」
　つま先立ちで拍手するシオの言葉に、妙子は目を丸くする。
「え、あれ先生なんですか？　すごい……綺麗だしすごいパワー……歌もプロみたい」
「そうだね。実際現場のインパクトは凄い、熱が違うね。真剣だからこそ感動させられるんだろうな」
　なんだか独身の頃に戻ったみたいな気分、と妙子はうっとり弥生先生を見つめた。
（あれ？　白石さん、ライブ集中してる？）
　そういうシオもまた、音楽の迫力に圧倒されている。

（う、うそでしょ……こんな偶然ってある！？）
　後の人の熱気で、一歩前へ押しやられた羽生碧南は、誰かの背中にぶつかってはっとした。
　偶然にも、そこにいたのは想い人の鷹取洋二だったのである。
「え、あ、先輩……！？」
　挙動不審気味になって、心臓がバクバクする。
「やあ羽生くん、君も来ていたんだね」
　洋二は涼しい顔で前髪をかき上げる。
「隣においでよ。ここなら空いてる」
　その飄々とした様子から察するに、この前のハプニングのことは、どうやら覚えていないらしい。
（うーん。ホッとするような、切なくなるような……）
　普段通りに接してくれる先輩にいっそのこと、この場で告白しようか……。

　碧南が「あの、」と口を開きかけたそのとき、弥生先生の声が、会場に響き渡った。

「みんなー楽しんでる！？　折角の機会よ、私たちとセッションしてみない？　遠慮は損よ、カモン！！」