【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【フィナーレ！　津止教頭＆樋口先生ライブ】３

　熱い熱いヘビメタに観客たちは酸欠寸前。
　そこに登場したのは、人気アイドルグループ「DOG110」の元メンバーである大沢ゆずかと、彼女が結成した「Citrus Cat's」のメンバー『末明（ほのか）せれね』こと夢宮瑠奈であった。

「夜だし、夏だし、ここはちょっと趣向を変えて、」
　瑠奈は銀のフルートを構える。
　爽やかな笛の音が響き渡る。
　瑠奈は歌うことを自分の基本と位置付けている。
　しかし楽器の練習も怠らず積んできたのだ。
「楽器が弾けるなんて知らなかったわ。いえ、キーボードくらいは、と思っていたけれど」
　ゆずかはそっと舌を巻いていた。
　ビジュアル、歌唱力、ダンスどれも並のレベル。そう自覚があるからこそ、頑張り屋さんなことが取り柄、と自分を評価してきたゆずかだけれど、瑠奈のフルートの音を耳にすると、頑張り屋さん度で負けたかな、なんて思ってしまう。
（意外な才能……ううん。頑張る子だって知ってた。何事も頑張る才能があるのよね）
　後輩が、こうやって頑張っている姿を見るのは、悪くない。

　熱くなった会場をクールダウンするかのように。
　
（心地よい音が響かせられたらいいな。みんなを安心する空気の中に取り込むことができたらいいな）

　風は遠くから吹く。

（こんなにも素敵な世界は、こんなにも暖かな学校があるよ）

　瑠奈のフルートに合わせて、ゆずかが歌う。
　ステージに残っている信彦のギタレレが優しい音で伴奏する。
　エレナもバレエのステップで花を添える。

（あたしはここにいるんだよ）

　ゆずかと目が合った。
　なんでそんなに何でもできるのって言ってる気がした。

（グループ立ち上げようとした姉さまほどじゃないですよ）

　瑠奈は微笑んで瞬きした。

（あたしはまだまだ学び舎の中にいるから、きっと見えていない世界もいっぱいあるんだろうな）
　瑠奈は思う。
（そんな世界をいっぱい、見せてくださいね。あたしをつれていってくださいね、ゆずか姉さま）

　曲が終わった。
　御巫時子と今道芽衣子は揃って大きな拍手を送った。
　ステージ上のメンバーは、全員前に出て一礼する。
　大きな拍手とアンコールの声。
　もちろん時子も芽衣子も、アンコールを乞う拍手している。

「みんな、ありがとう！　今宵は、本当に最高の夜よ。アンコール、行かせてもらうわ。――裏校歌！」

　弥生先生が一呼吸、大きく吸ってラップを繰り出す。

　　（Rap）
　　ここは寝子島　マジで良い島　セーイ？　（べべん♪）
　　寝子島高校我は親孝行イェー！　（べべん♪）
　　全てのものに感謝特にかーちゃんマジ感謝！（べん！）　YO！　（べん！）

♪　今日も外では猫のさかり声
　　おおフリーダム　おおフリーダム

♪　今日も外では猫のさかり声
　　（サンマさんもがんばってるよー！）（べべん♪）
　　寝子高　寝子高　寝子高　寝子島高校

　　（セリフ　弥生先生、マイクを観客席に向け、観客全員で）
　「光があれば必ず影ができるよね？」

♪　ソレは考えない　考えない　考えない　考えない
　　綺麗事しか考えない　Ah Ah　（べべん♪）

　　今日も外では猫のさかり声
　　らっかみさまのご加護ありにゃにゃにゃにゃーん（べべべべーん♪）
　　にゃにゃにゃにゃーん（べべべべーん♪）
　

　信彦も、エレナも、遠海も、葉月も、ゆずかも、瑠奈も。
　いっしょになって、にゃにゃにゃにゃーん。

　大きな大きな拍手とともに、フィナーレライブは閉幕した。

　白石妙子は「楽しかったわ」と嘆息した。
　同意の頷きを返し、シオ・レイゼルオークはパンフレットに目を落とす。
「先生達の頼もしさの一端を見た気がするね。普段、学校行事に関わらない身なので、今回しみじみ感じたよ。それを含めこのイベントって凄いね」
「本当ね」

　見上げた空には、星が数多に輝いている。

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