【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【射的屋・白の魔弾】３

　ウォルター先生の射的屋は、コンスタントに人が来ていた。
　ちょっと前から、鴻上彰尋が手伝ってくれている。
「パネルを動かす人も必要だと思うし、中には人のままの的もいるの……かな？　何となく肉体労働が必要そうなところを手伝うよ」
「助かるよ」
「いやーみなさんお上手すぎて僕もう満身創痍ですよー。
　動く的として、すでに結構な数のチョークを喰らっていた倉前七瀬は、彰尋の協力を、ウォルター先生以上に喜んで、プログラムで動く人型の合間で、生身の人間的としてどのように動くかを素早くレクチャー。
　早速実践だ。

◇

「ね、ね、紗月！　おもしろそうだから、これもやってみようよ」
「理緒ちゃんってホントに好奇心の塊だね」
　やってきたのは、初瀬川理緒と佐和崎紗月。
　ウォルター先生の説明を聞いた理緒は、整った眉をキリリ、とさせてチョークを受け取る。
「チョークを投げる際は標的をしっかりと捕捉したうえで、動きも予想して素早く投げるべし、か」
　片目を瞑り、眉間の間にチョークを構え、先生の教え通りまっすぐに素早く投げ――たつもりだった。
　１本目は疲れの見える七瀬を捕らえ、２本目で自動で動く人型の的に当てる。
　３本目はゆっくりゆっくり動く彰尋に狙いを定める。
（余裕！）
　そう思ったが、投げた瞬間彰尋がふっと素早く動いてチョークは虚しく落ちる。
「あーん悔しいっ！」
　勢いのまま、残り２本も立て続けに彰尋を狙ったが、焦りが出たか外してしまう。
「あちゃー。２本かー」
　
　次は紗月の番だった。
「チョーク投げに限らず、この種のゲームは苦手だけど……やってみるね」
　紗月は深呼吸して集中すると、あわてず騒がず、すっと物静かな仕草でチョークを投げる。
　二連続で人型の的に当てると、当てやすそうな七瀬ではなく、理緒が当て損ねた彰尋に狙いを定めた。
（リベンジ、というわけではないけれど、チャレンジはしてみてもいいわよね……）
　冷静に。
　標的の動きを見て、最小限の動きで一投。
　動きに緩急をつけて避けようとした彰尋だったが、タイミングが一歩遅かったようだ。
「うーん、残念。当てられちゃった」
　彰尋はチョークにあてられるのも貴重な経験、とはにかむ。
「当たったよ紗月！」
「やったよ、理緒ちゃん！」
　紗月と理緒はハイタッチで飛びあがって喜んでおり、それを見ると当てられた彰尋も清々しい気持ちだ。
　結局、もう一つ人型に当てて、紗月の成績は４点！
「悔しいなー負けちゃった」
　口ではそういう理緒だが、表情は、恋人と楽しめて良かった、と晴れ晴れしている。
「苦手かな、と思っていたゲームで、理緒ちゃんに勝てて嬉しいな」
　それぞれウミャカ棒（納豆味）を景品に貰い、ゲーム終了。
　帰り際、紗月は理緒に身を寄せた。
「楽しかったよ、理緒ちゃん」
「私もだよ、紗月」