【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【黒崎先生を探せ！かくれんぼ大会】４

　ののこと英二は、音楽室をうろうろ。鈴を鳴らして位置確認し合い、手分けして手探りで探しているが、いまだ黒崎先生の発見には至っていない。
「野々さん、つまずかないように気をつけて」
「うん。わかってるよー……ぎゃーー！！」
「野々さん、どうしたの！？」
「いたーい！　縦笛につまづいて転んだー！　もー、誰？　ちゃんと片付けてない人は！」
「見せて。……えーと」
　僅かな月明かりに透かして名前を読み取る。
「……言いづらいんだけど、『野々』って書いてある気が……」
「え。へへ。まあ、そういうこともあるよね！」
　ののこはぺろっと舌を出しているのだろう。
　彼女の明るい笑顔を見るのが好きだ。
　気さくな今の距離感も気に入っている。
　暗くて見えないが。
「ところでさー英二くん。音楽室には、いないっぽくない？」
「うーん。たしかに」
　英二はフジコ先生の占いのことを考えていた。
「ねえ野々さん。『波打つ黒と月』って何だと思う？」
「波打つ黒？」
　カーテンを捲ってその裏にいないか見ていたののこは、窓の外に浮かぶ月を見つけ、あ！　と声を上げる。
「波打つ黒って、カーテンのことじゃない？　ほら、月も見えるし！」
「そうか。どこかの部屋のカーテンの裏に隠れてるっていう暗示かもしれないね」
「英二くん、カーテンが一番黒いのは、視聴覚室だよ」
「そうか、遮光カーテン！」
　英二とののこは急いで視聴覚室へと向かった。
　部屋には、ちりん、ちりん、と弾むような音が響いている。この音をさせられる参加者は一人しかいない。
「曖浜くん？」
「あっ、その声は、ののこお姉さんと英二お兄さん？　先生、見つけた？」
「まだだけど、もしかしたら、この部屋のカーテンの裏にいないかな？」
　そういって英二とののこは左右の端から手分けしてカーテンを捲っていった。
「オレもやるー！」
　瑠樹も真似して真ん中のカーテンを捲るとそこには――黒崎先生が立っていた！

「先生、みーつけたぁ！」

　瑠樹の声が響き渡り、校内にぱっと電気がついた。
「あと１分逃げ切れば勝ちだったんだが見つかっちゃったか。嬉しいような、残念なような」
　黒崎先生は観念したように、微笑んだ。

◇

　黒崎先生が見つかったので、受付に戻ってきた参加者全員にスイカが振舞われた。

「スイカしゃりしゃりー！　おいしいねぇ！」
　発見者の瑠樹はスイカにかぶりつく。
　ちなみに種はそっと吐き出して後で捨てる派だ。

「すっごい怖くなかった？」
「怖かったよー！」
　ののことあおいが女子トークする傍らで、修と英二もスイカに舌鼓。
　ふたりとも口には出さないが、好きな人と一緒に食べるスイカは格別だ。
「それにしても英二君、フジコ先生の占いを参考にして見つけたって？　すごいな」
「フジコ先生はもう、スピリチュアル系で身を立てたらいいんじゃないかと思うよね」

　莉鳥と雅樹もスイカを頬張る。
「そんなに食べると夜トイレに行きたくなるわよ」
「そっちこそ」
　こんな夏も、今年きりなのだろうか。
　そんな感慨をお互いに抱えつつ、微妙な距離感のふたりは同時に種を吐き出す。

「最悪だ。オルカのせいで終わったのに気づかなかった」
「な～に言ってるの。よかったでしょ？　Mio Destino」
　悠月とオルカがかなり遅れて校舎から出てくる。
「んふふ。スイカ、取っておきましたよ」
　秘子が含み笑いで二人を出迎える。
　悠月にスイカを渡すと、秘子は意味深に首筋を指さす。
　悠月はその意味に気付き、真っ赤になった。
「オルカ！」
「あはは、悠月～。スイカ、食べてく？　それとももう帰る？」
「帰る！」
「だってさ。スイカは持って帰るよ。ありがとね～」

　そのころ、黒崎先生は。
　オルカと悠月のラブラブな背中を見ながら、
「まったく。最近の学生は……」
　とため息をついていたものの、誰にも気づかれませんでしたとさ。