【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【黒崎先生を探せ！かくれんぼ大会】３

　悠月は内心びくびくと廊下を歩く。
（できるだけ早く明るいところへ）
　そう思っていたら突然、手首を掴まれ、空き教室に引きずり込まれた。
「ひっ……！　……ぁ、オルカか？」
「Hai indovinato～! よくわかったね悠月」
　抱き締めてくる温度。息づかい。
　間違いない。俺のオルカだ。
　耳元で鳴る楽しげなついばみの音に正体を把握すると、半分呆れ、半分安堵の息をつく。
「お前の方こそ、人違いだったらどうする気だ」
「俺が悠月を間違えるわけないじゃん」
　オルカの指先が、頬を撫でる。
　その指先の這い方がなんともエロティックで。思わず顎を逸らせる。
　耳元に流し込まれるのは心地良いハスキーボイス。
「はは、そのぶんだと目的もわかってるみたいだね」
　ムッとする気持ちと、ドキッとする気持ちが同時に湧き上がって来て、咽喉が鳴る。
　暗いのに表情が全部バレてるみたいで落ち着かない。
「マードレが持ってたマンガで見てね。一度やってみたかったんだよね～」
「なにを」
「夜の学校で隠れていちゃいちゃ」
「……まだるっこしいことなんかしないでお前の家にでもいけばいいだろ」
「だってこの方がロマンチックじゃない？」
「そうか？」
　ぶっきらぼうに返しても、きっとオルカにはバレているだろう。
　心臓が早鐘を打っていて、どうしようもないことなんて。
「まあまあ、せっかく二人っきりなんだからさ悠月。ちょ～っとくらいイイことしようよ」
「なに、を」
　顎を、くい、と持ち上げられる。
　鼻先がオルカの鼻先に触れる。
「学校だぞ」
「だって暗くてこうしないと顔見えないし。それに離れてちゃ、愛してあげられないでしょ？」
　口唇と口唇が掠る。
　愛、だなんて。
「そもそも触れているところから全部漏れ出ているんじゃないか？　……少し離れろ」
　押し退けようとする手は逆にとられ、苦情も深いくちづけに飲み込まれる。
　カーテンがふわりと揺れる。
　隙間から差し込む月光が、秘めやかに二人を照らす。
　オルカの腕の中で、力が抜けていく。
　
（ああ、こうやって抵抗も奪っていくんだ……ずるいヤツ）

　心の中でそう思いながら、悠月はオルカに身をゆだねた。

　廊下をそっと抜けていく先生の気配なんか、感じる暇もない。