【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【黒崎先生を探せ！かくれんぼ大会】２

　雅樹と莉鳥がやってきたのは図書室であった。
「黒岩先生が暗闇の校舎内に隠れたって……」
「黒崎」
「ただでさえ存在感絶無の黒磯先生が、暗闇の中に隠れたら発見不可能じゃないのか？」
「黒崎」
「いちいち突っ込んでくれてありがとよ」
「もしも先生が隠れて聞いていたら今ごろ涙目よ。ところでそろそろ黙ってくれない？」
　莉鳥はそっけなく言って、自分も黙り込む。
　先生は見つからぬように必死になって潜んだりこっそり移動をしようと謀るだろう。
　その際に生じる微かな気配の現れを全神経を研ぎ澄ませてキャッチしようというのだ。
　気配を殺す莉鳥の隣で、雅樹は彼女の見えない横顔を想像した。きっといつもの、無愛想な横顔だ。
（ま、付き合うか）
　しんと静まり返った図書室の隅に、二人はそっとしゃがみ込み続ける。

◇

（隠れる場所が多そうっていうとやっぱ視聴覚室かな～？　あそこの机の下結構死角だし）
　悠月に手を振り払われたオルカは、ひとり、机の下を慎重に手探りで探していた。
　夜目は効く方だが頭をぶつけたらカッコ悪すぎる。
　一つ一つ順番に机の下を探ってみたが、黒崎先生は見つからない。
（まあ、諦めよう）
　ふぅ、と息をついて、腰を伸ばす。りん、と、ひとつ鈴がなる。
　他の鈴音は部屋の外から聞こえるから、今、視聴覚室を調べているのは自分だけのようだ。
「Il mare di ombre」
　唱えて指を鳴らせば、オルカの身体は影だらけの床に沈む。帰りは、影のできた物体や地面に入って、泳げるようになるろっこんでショートカットだ。
　とぷん、と水から上がるようにして廊下へ出る。
　窓があるので、室内よりすこしだけ目が効く。
「さて、俺の本命を探そうかな～」

◇

　一方、びくびくと音楽室に足を踏み入れた悠月は、先ほどオルカの手を振り払ったことを心底後悔していた。
（……よりによって、暗闇でかくれんぼだなんて）
　暗闇は昔よりは平気になったが、夜の学校だなんてあからさまにホラーな雰囲気が、心地よいはずがない。
（意地をはらずに一緒にまわればよかったんだ）
　唇を軽く噛む。
　ああでも、と脳内に巡る言い訳の言葉。
（アイツのスキンシップは心臓に悪い。だから……仕方がない）　
　本能的に来た音楽室。
　どこに何があるかわかってはいるから有利だと思ったが……自分の選択に、激しく後悔だ。
　暗がりの中のピアノも、僅かな月明かりに浮かび上がる音楽家の肖像画も、怖すぎる。
（ベートーベンもバッハもワーグナーも、睨みすぎだろ。もう少し笑顔で描いて貰えばよかったんだ）
　がた、と音がし、ぎょっとして棒立ちになる。
　ややあって、自分が蹴飛ばした椅子の音だと気づく。
「……ッ、きっと、この部屋にはいないな」
　悠月は、探索もそこそこに、廊下に出る。

◇

　八神修と七夜あおいは手首に巻いた鈴をりん、りりん、と鳴らしながら理科室へやってきた。
「よ、夜の理科室って、怖いね……」
　無意識だろう、あおいが修の服の裾を掴んでいる。
　頼りにされて修は心密かに嬉しくなる。
「先生、いるかな……」
「机の下、よく見ていこう」
「うん」
　ひとつずつ見ていくが、とくに変わりはないようだ。
「まさかと思うけど、人体模型に成りすましてたり、しないかな？」
「え、どうだろ……」
　ドキドキ、あおいは人体模型に手を伸ばす。
「きゃあっ！」
「どうした？」
「う、ううん。大丈夫。筋肉の筋っぽい形にびっくりしただけ」
「怖いなら手をつなぐ？」
「う、うん」
　恥ずかしさより怖さの方が上回っているのだろう。あおいは修の手をしっかと握った。
　あおいの手は、真夏なのに冷たくなっている。
「ねえ、修君。今なにか音がしなかった？」
　あおいの不安そうな声。修はしいっと指先を唇に当てて、耳を澄ます。

◇

　ぱたぱたぱた、ちりんちりん。
　軽い子どもの足音と鈴の音。
「先生、どこかなぁー？」
　瑠樹だ。
「ちりんちりん……にゃんこみたいだねぇ！」
　図書室に入っていく。
「にゃんこも隠れてないかなぁ……？」
　書架の間を覗き込んだとき、そこに潜んでいた莉鳥とばっちり、目があった。
「わあっ！　だ、誰？」
「先生じゃない。学生よ」
　莉鳥の隣にいた雅樹が、安心させるような声で瑠樹に告げる。
「先生、まだここには来てない。ここは俺らが見張っとくから、ほかを探してみな」
「わかったよぉ」
　瑠樹は図書室から出て別の場所を探しに出かける。

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