朝陽を浴びながら｜リアクション

朝陽を浴びながら

○朝食の準備

　高校３年生の森篠琳子は、６時少し前に目が覚めました。
　服を着替えて、顔を洗った琳子が他の女子高生たちと少し違うのは。
　台所に入ってエプロンをつけたことでした。
　高校１年生の時父を亡くし、母子家庭となって。
　母親が仕事に出るので、朝食の準備は基本的に琳子が行うことになったのでした。
（……と言っても、昨夜の残り物を温めなおしたりするだけだけど）
　テーブルに食事を並べ終えましたが、琳子の仕事はこれで終わったわけではありません。
　責任感が強く面倒見がよい琳子は、次に妹の奏子を起こしに行きました。
　小学３年生の奏子は学校でラジオ体操があります。
「起きて。遅刻するわよ」
　もう少し寝たい、と奏子は駄々をこねますが布団をはがしどうにか起こします。
「さあ、着替えて」
　夏休みなのだから、声をかけた後は放っておいてもいいのかもしれません。
　けれど典型的な長女気質な琳子は、頑固なほどに母親役をこなしてしまうのでした。
「いただきます」
　母娘３人で慌ただしく朝食をとります。
　家族で過ごす貴重な時間でした。

「ごちそうさま」
　食べ終わると母親は身支度を手早く済ませて仕事に出かけます。
「奏子、歯を磨いてね」
　妹に歯を磨くよう言いつけ、琳子も歯を磨きます。
「はいスタンプカード。ハンカチもね」
　それから妹に必要なものを持たせて、玄関で見送りました。
「いってらっしゃい」

　二人を送り出した後は、食器類を洗い後片付けをします。
　学校がある日と違い、終わった後は時間に追われずに一息つくことができます。
「ふう」
　冷たい麦茶を入れて、居間でぼんやりと時間を過ごす琳子。
（夏休みが終われば……就職試験がある）
　そのことが頭に浮かびました。
　成績優秀な琳子は難関大学も充分狙えるはずですが、母子家庭であることや妹のことを考えて進学を諦めてしまっています。
　寝子島信用金庫の採用試験を受けることになったのはいろいろ考えた結果でした。
　けれど、心にモヤモヤするものがあります。
　自分が学生でなくなるということに実感が湧かなくて。
（……どの道を選んだって、最善かどうかなんて、誰だってわかるわけないじゃない）
　頭を振って琳子は麦茶を飲み干し、部屋に戻っていきます。
（就職試験の勉強をするか）
　精一杯前向きになろうとしている琳子でした。

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