なつやすみのだいぼうけん！｜リアクション

なつやすみのだいぼうけん！

☆猫又川の上流へ

　小学６年生の佐藤瀬莉は、普段は懐中時計いじりが趣味のインドア派だ。
　しかし今日はしっかりと探検向きの服装をしている。
「虫よけスプレーに、日焼け止め。リュックにはタオルとお弁当、それと麦茶の入った水筒」
　お弁当は、「気をつけて行ってくるのよ」と言ってお母さんが作ってくれた。
　忘れ物がないようしっかり確認する。
　そしてもちろん、腰には懐中時計。

「おはよー」　
　夏休みの小学校前で友達と集合する。
「それじゃ、行こうか」
　学校近くを流れている猫又川上流が今日の探検の目的地だ。
　まずは道なりにそって川を上っていく。
　人や車の通行の多い道路はアスファルトの照り返しで暑い。
「山に入れば涼しくなるから、もう少しの辛抱だね」
　途中で細い山道のような道へ入り、木陰でほっと一息。
　車道が見えなくなると、やがて濃厚な草の匂いが鼻を刺激して。
　嗅覚どころか皮膚から感じられるほど全身を包み込む。
　近くを流れる川のせせらぎも、街中とは違ってより深く聞こえてくるかのよう。
　既に山道なので、瀬莉は足元に注意しつつ歩いていたのだが。
「緑がいっぱい！　なんかなつかしー！」
　友達は大はしゃぎして走り出した。
「ちょっと待ってよ！」
　友達に置いてきぼりを喰らいそうになるので、慌てて走って追いかける瀬莉は躓きそうになった。
「もう、ゆっくり行こうよー」
　冷や冷やしながら言うが、しばらくゆっくり歩いたかと思うとまた友達は走り出してしまうのだ。
（私がはしゃぐならわかるけど）
　幼い頃大病を患った瀬莉は、他の人ほど山歩きの経験がないと思う。
　だから懐かしいとかいう感覚はわからない。
　そしてやっぱり……すぐ疲れてしまう。

「何だか物凄いところ通ってる気がするんだけど……」
　ヘトヘトになった瀬莉の前に現れたのは、丸木橋だ。
　子供一人が通るのがやっと、踏み外したら川へ転落してしまう。
「キャー、スリルある。早くおいでよー」
　楽しそうに友達は橋を渡っていったが、瀬莉の顔がちょっと引きつる。
「ちょっと心の準備させて」
「だいじょうぶだよー、もし落ちたら助けてあげる」
「落ちたくないんだってば……」
　慎重に歩き橋を越えて、ほっとしたのもつかの間。
「うわ、何この虫？！」
　行く手に羽虫がわんわん湧いている。
　そこまで虫嫌いというわけではないけれど、これはちょっと怖い。
「う回とかできないよね……」
　元気な友達もたじろいでいる。
「息を止めて顔隠して走り抜けよう」
　意を決して、帽子で顔を隠し瀬莉は走り出す。
「ま、待って～」
　今度は友達が追いかけてくる番だった。

「はあ、やっと抜けられた……」
「もう源流に近いんじゃない？」
　虫を振り切ると、そこは綺麗な水が湧く泉だった。
　靴と靴下を脱いで、素足を水につける。
「冷たい……」
　今までの疲れが吹っ飛んだ気分だ。
（これだけでも来た甲斐あったな）
　と思っていると。
「気持ちいい～！」
　とはしゃぐ友達に水をかけられた。
「やったなー！」
　瀬莉も水をすくって友達に反撃する。
　ちなみに、服の下にはスク水を着てるので水の掛け合いっこにも対応できる……あとからちょっと寒くなりそうだが。
　瀬莉たちは歓声をあげながら水かけっこを楽しんだ。

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