なつやすみのだいぼうけん！｜リアクション

なつやすみのだいぼうけん！

☆探検！　寝子島水処理センター

　夏休みのある平日。
「んはー！　今日もいい天気ッス！」
　５年生の古尾桐子は、窓から差し込む光に目を細めた。
「こんないい天気の日は町を探検するに限るッス！　今日はどこにいってみるッスかね？」
　最近行った場所や聞いた話を思い起こす。
「そういや猫又川を海に向かってたどるとなんか変わった建物につく、って噂を聞いたッス！」　
　その建物には猫耳がついている、と先日公園で話をした小学生男子が教えてくれたのだ。
「こりゃ確かめにいってみるしかねッス！　探検♪探検♪ウチのまちー♪」
　桐子は水筒を持ってさっそく出かけた。

「川沿いに歩くのも気持ちいいッスねー」
　川の水は少なめで、土手には一面に緑の草が茂っている。
　爽やかな風が吹いていて暑すぎることはなかった。
（危ないところには行くなととーちゃんに言われてるッスが、町の中だしこのへんならだいじょうぶッスね）
「お、見えてきたッス！　猫耳……なるほどッス、あれが噂の変わった建物ッスね」　
　屋根が二箇所突き出ているデザインは、一度そう思ってみれば確かに猫耳にしか見えない。
　近づいた桐子は門のプレートに書かれた文字を読んだ。
「えっと……ね……こしま……みずしょりせんたー？　んー、なにをする建物ッスかね？」
　水に関する建物であるのはわかる。中を覗き込めば遠くにプールのような水面が見えた。
　普通ならそこまでで帰るのだろうが、桐子はそれだけでは満足できなかった。
　ちょうど門の向こうを人が歩いてきた。
「ちょっと見学できないか聞いてみるッス！　たのもー！」　
「な、なんだ？」
　驚いたおっちゃんがこちらに来てくれた。
「おっちゃん！　この建物ってなにしてる場所なんスか？」　
「ああ……ここは、水を綺麗にするところだよ」
　おっちゃんが親切に教えてくれる。
「おお！　水をきれーに？！　どうやってきれーにしてるッス？」
　食いついた桐子に、ちょっと考えておっちゃんは言った。
「そうだな……口で説明するより、見学してみるかい？」
「え？　見学してってもいいんスか？！」
「ほんとは予約が必要だけど、まあいいだろ」
「やったー！　中を探検するッス！」
　桐子は飛び跳ねて喜び、おっちゃんについて建物の中に入っていった。

「ほほー、ここで水を調べたりしてるッスかー」
　桐子は珍しそうに池や説明のパネルを眺める。
「あっ、顕微鏡があるッス！　理科室で見たことあるッスよ」
「見てごらん」
　おっちゃんが顕微鏡に何かをのせ、手招きする。
「え？　おっちゃん顕微鏡で何見せてくれるッス？」
　わくわくしながら覗いてみると。
「おおおお！？　なんかうにょうにょしたのがいるッス！」
　レンズの円の中で、拡大されたよくわからないものが蠢いていた。
「この微生物が水を綺麗にしてくれるんだ」　
「ほうほうー、このうにょうにょしたびせーぶつってのが水をきれいに……びせいぶつのちからってすげーッス！」
「この微生物、宇宙でも生きられるんだよ」
「マジッスか！　帰ったらとーちゃんに説明して自慢するッス！」

　桐子は、おっちゃんにもらったリーフレットを手土産に、好奇心を満足させて処理センターを後にした。
　

このページにイラストを設定する