【星幽塔】第一階層　突然……summer vacation!｜リアクション

【星幽塔】第一階層　突然……summer vacation!

●ユニコーンと遊覧飛行

（またしても星幽塔とかいう夢の世界へきてしまった……）
　ひんやりとした森の入り口で、水上桜は呆然と立ち尽くしていた。

　良く来てしまうのだ。このファンタジックな夢の世界に。……私、意外に作家の才能あるのかしら？
　桜は頬に手を置き考えてしまう。彼女はどうやらこの世界を夢だと考えているようだ。
（ま、夢なら夢で）
　桜はポンと手を打った。
　楽しんじゃいましょう。暑い寝子島と違って、この場所は何だか涼しいし―――夢だけど。

　桜はまず森を散策する事にした。木々が緑の葉を揺らし、きつい日射しを柔らかく地上に届けている。ひんやりとした空気の中、きらきらとプリズムのように落ちる光に桜はちょっと眩しげに目を細めた。
　それにしても何て珍しい草花が生えている森だろう。桜は小道を歩きながらその印象的な黒い瞳を輝かせた。どこを見ても図鑑でもお目にかかれないような不思議な草花の数々。

（へぇ……この花なんてアクセのモチーフに使えそう）
　可憐な花を手に取り、桜はしげしげと眺める。あちらにも、こちらにも。誘われるように小道を進んでいった桜は柔らかく芝生に光が落ちる、神秘的な広場のような所に出た。
（あら、ずいぶん奥まで来ちゃったかも）
　きょろりと辺りを眺めた桜はふと目を留めた。え、ちょっと待って。あれは……。
「ユニコーン？！」
　思わず声が出た。真っ白な体、同じく純白のたてがみ。額からは長く鋭い角が突き出ている。背からは夢のような虹色に輝く翼が生えていた。
（翼を持つユニコーンなのね）
　角が生えているペガサスかもしれないが、まあどちらでもいい。実際目の前にいるのだから。
　その時、ユニコーンが静かに深く青い瞳を桜に向けた。その澄んだ神々しさに魅入られたように、桜は目が離せなくなってしまった。
「あの……ごめんなさい、お邪魔だったかしら」
　桜は思わずぺこりと頭を下げる。ユニコーンは桜を小首を傾げじっと見つめると、フルル……と鼻息一つついて近付いてきた。

　桜のすぐ傍まで来たユニコーン。思っていたよりは小さく、瞳も少し大きめで可愛らしい。
（もしかしてまだ子供なのかしら？）
　桜を興味津々で見る姿は何だかやんちゃに思える。するとユニコーン、ちょっと桜の服を噛みながら引っ張り、自分の背に近付けた。
「え、何？　乗れって事？」
　桜が言うと、ユニコーンはヒヒンと小さく鳴く。いいの？　と重ねて訊く桜に待ちきれないようにユニコーンがまた服を引っ張った。
（ほんとにいいのかしら……）
　半信半疑で桜はそっとユニコーンの背に乗る。すると途端にユニコーンは背の翼を羽ばたかせ、空中に駆け出した。
「きゃーーーっ？！」
　突然の事にぎゅっとユニコーンの首筋を抱える桜。しかし眩しい光に誘われるように目を開けると、思わず笑顔になった。
「綺麗……」
　眼下には美しい森ときらきらした湖が広がっていた。飛びながら吹き抜ける風も優しく、何と気持ちいい事か。桜はほうと感嘆の溜息をつき、そっとユニコーンの首筋に頬を寄せた。
「乗せてくれてありがとう……とても嬉しいわ」
　ユニコーンは嬉しそうに嘶いた。そして桜は暫くの間優雅な遊覧飛行を楽しむのだった……とはいかなかった。

「ちょ、ちょっと待って～～～！」
　桜はユニコーンの首筋にかじりついて叫んでいた。桜に褒められたのを何となく感じ取ったユニコーン、嬉しくなって俄然張り切りだしたのである。
　急上昇、急降下。くるりと華麗に宙返り。いや凄い。凄いのだが。桜は景色を見る余裕なんてない。振り落とされないように必死に掴まっているだけだ。
「キャーーーーッ！」
　森の上空に絹を裂くような叫びが響く。頑張れ桜。そのユニコーン、若い故に体力があるぞ。

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