狂暑｜リアクション

狂暑

●脱衣　ＶＳ　チャイコフスキ―

「ヒャッハー！　あまりの暑さに脱いじまったが……この夏が俺を狂わせる！　……つまり……今脱衣が求められてるんだ！」
　冴木竜司の脱衣は大体いつものことでしたが、この暑さはさらにそれを正当化させるものでした。
「あまりにも暑いから脱ぎだすのは当然だよな！　むしろ脱がないのはおかしい！　それくらい暑い！　俺は正しいんだ！」
　ＮＹＡＮ値チェックに失敗した顔で、竜司はニヤリと笑います。
「ところで今回の参加者は俺以外全員女性な気がする！　……つまり……俺が求められてるのは……暑がってる女性陣を脱がせちゃう紳士役！」
　暑さのあまりか、突っ込みどころ満載なメタ発言まで始めました。
「ウォォォ！！！　そうと決まればこの（変態）紳士である俺、冴木竜司！　今こそ極めた脱衣術を活かす時！　女性のおっぱいやおしりを拝みたいんじゃー！　皆の全裸見てみたいんじゃー！」
　欲望ダダ漏れの発言をしているのは、ろっこん『性春パワー！』発動のため。
　エロい想いを大声で叫び続けることで、全身の筋力が強化されるのです。
　高速で走り出した竜司は、さっそく女生徒の姿を見つけると秒速で彼女の服を剥ぎ取りました！
「えっ？　キャー！」
　何が起きたかわからないうちに全裸にされた女子の姿を、竜司は秒速で拝んで堪能。
　そして、すぐさま自身のレインボー下着をつけさせて下着姿にしました！
　それは無駄に洗練された高度な変態行為でした。
　女生徒が自分の身に起こったことに気づき再び悲鳴を上げた時には、すでに竜司は走り去り、新たなターゲットを脱がしているのでした。

「あっつーい！　あついなーもう！　これもみんな変態たちのせいだ！」
　桜庭円は、暑さの中叫んでいました。
「みんな、みんな狂ってる！　暑さで皆駄目になってしもうた！」
　街中では下着姿の女が踊り狂っているし、寝子高についてみれば、タガがはずれたレインボー下着姿の女子が水をかけあっています。
「これは、この混乱を収めるために召喚するしかない！」
　何を思ったのか、円は棒切れを拾いグラウンドへ駆け出しました。
「クリフォトを書いて、召喚する！　チャイコフスキーさんを！！！！」　
　寝子島書房の実践読者である円は、グラウンドにユダヤの神秘主義カバラの力を表す邪悪の樹を描き、クルミ割り人形の曲をを口ずさみながら洋人形を配置していきます。
「クルミ割り人形とは、性欲へのカウンターとしてのメタファー！　偉大なるチャイコさん！　始祖ホフマン（『クルミ割り人形』の原作者）！　どうかこの珍事をお鎮めください！！！　皆の性欲、混乱を沈めるのです……！！！」

　
「大体の女性の裸体を堪能したらいよいよメインディッシュ……そう！　愛しの相原まゆ先生の裸体を拝むのだ！」
　そのころ、女性たちの脱衣を繰り返した竜司は、いよいよ愛しのまゆ先生の元へと向かっていました。

「答えて……答えてくれない……！」
　グラウンドで、円は変化のない地面を拳で叩いていました。
「やはり……贄、贄が足りぬと申すか……！　邪悪の樹クリフォトよ！　贄を求めるか！！！　悪魔め！！！」
　気が済むまで地面を叩くと、円は顔を上げました。
「仕方ないから、１０人ほど拉致って、洋人形と入れ替えよ！　高かったのにな！　ぷんぷん！！！」
　完全なる正気たる（と思っている）円は、混乱を鎮めるため贄をチャイコフスキーに捧げるべく立ち上がったのでした。

「何の騒ぎなの？　スプリンクラーが？！」
　職員室にいたまゆ先生は、外の騒ぎを聞きつけて様子を見に出てきました。
　そして竜司と出会ってしまったのです。
「竜司君？！　その格好は……」
「まゆ先生！　今日も可憐で可愛らしい素敵な御姿最高です！　俺と結婚を通り越してらっ倫の先を目指しましょう！」
「な、何言ってるの？！」
　竜司の手がまゆ先生の服を脱がそうとしたその時。
　聞こえてきたクルミ割り人形の歌に、竜司は本能的な恐怖を感じて身を凍らせました。
「神への贄となる、名誉を与える！！！！」
（相手の体重移動とか目線などで動きを読んで……）
　次の瞬間、ボクシング部で鍛えた円のフックが竜司のボディを捕らえます。
「ぐあっ！？　どいひー！？」
「クルミ（ゴールデンボール）割りアタック！」
　そして容赦なく、円のパンチは竜司のクルミを襲ったのでした……！
「皆待っていて！！！　そして正気をとりもどすのです！！！！」
　悶絶した竜司を、円はズルズルと引きずっていったのでした。
「えっちょっと、大丈夫なの？」
　残されたまゆ先生は唖然としましたが、とりあえずスプリンクラーへの対応に向かうことにしたのでした。

「……はっ！　俺は何を……そうか、あまりの暑さに俺は……すまん！　おれは　しょうきに　もどった！」
　気が付いた竜司は、しかしグラウンドで杭に縛りつけられていました。
　痛みに耐えながら目を上げれば、仮面をつけ禍々しい笑みを浮かべた円が仁王立ち。
　その顔を見た途端、竜司はまだ正気側に戻れないことを悟ったのでした。
「偉大なるチャイコさん！　今こそ力を……！」

　その後、何が起きたのかを記憶する者は円だけでした。

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狂暑

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