狂暑｜リアクション

狂暑

●氷柱と踊れ

　寝子島町役場職員の三折部朝衣は、シーサイドアウトレットへ買い物に出かけていました。
　しかし。
「外へ出るんじゃなかった……」
　あまりの暑さに後悔していたのでした。
（いまから寝子ヶ浜海岸へ波乗りしに行くか……？）
　そんな考えも浮かびましたが、でも家に引き返したらその時点で力尽きそうな暑さです。
「やっぱり今日はそのまま、服を買いに行こう」
　暑いから通気性が高い綿１００％のタンクトップとショートパンツで来たのに、いつのまにかすっかり汗を吸っていました。
（もう肌にべたついて気持ち悪い……）
　服を買ったらその場で着替えるか、などとぼんやり考えながらアウトレット前の広場に差し掛かると。

「……何これ？」
　そこにはなぜかでっかい氷の柱が置かれていました。
（なんだか気持ちよさげ）
　そう思ったはずでしたが。
　ぎらり。
　真夏の太陽が氷の柱を光らせ、なんだか屈折して見えた……と思った瞬間。
　強烈なインスピレーションが、朝衣の脳裏を光速で突き抜けたのでした。　
　あの氷の柱の中に何かがいる！
（何かって何？　知らないわよそんなの、でも何かがいるにきまってるじゃない！）
　暑さのせいで見えた幻覚でしょうか。しかし朝衣にはそうとしか思えなくなっていたのです。
　ちょうどそこへ情熱的なダンスミュージックが流れてきました。
　それは自然と朝衣の身体を突き動かしました。
　気が付けば暑さを忘れ、全身全霊でライドオンしてキレッキレに踊りまくっていたのです。
　朝衣につられたか何人かが踊りだしていました。
　さらに曲調はセクシーになっていき……朝衣はノリのままに、人目も構わずに服を脱ぎ棄ててセクシーランジェリー姿になりました。
　そのままさらに妖艶に踊り狂います。　
　観衆は大興奮で手拍子を送ります。
（……三折部さん？）
　その様子を物陰から唖然と見ている男がいることなど、気分よく踊る朝衣は知る由もありませんでした。
　
　やがて朝衣は氷の柱へ近づいてエロティックに絡みつきます。
　朝衣の熱い肌が氷を溶かし、溶けた水が下着を濡らしました。
　そこで曲調が戦闘的なものへと変わりました。
　するといきなり、朝衣は氷の柱から飛び退り、正気に返ったのかと思えば。
　その辺の幟を引っこ抜き、成敗してくれるとばかりに氷の柱を叩き出しました！
　まさに狂的な暴走。
　
　その狂乱は音楽が途切れるまで続き、真夏の昼の夢として観客たちの暑さを忘れさせたのでした。

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