【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

○屋台を巡る姉妹

　旧市街の自宅で、中学３年生の仙藤蒼は大学１年生の姉の仙藤紫に浴衣の着付けを手伝ってもらっていた。
「去年の浴衣、今年も着られてよかったわね」
　白地に紫の花の柄の浴衣を着た紫が、水色に朝顔と金魚の柄が賑やかな蒼の浴衣の帯を締めてくれた。
「それって要するに体型とかあまり変わってないってことじゃ……」
「すぐに大きくなるわよ」
　普段から大人びて見える紫は、髪を上げるとさらに大人の魅力が漂う。
　なんか複雑だけど、この浴衣は割と気に入っているので無問題かな、と蒼は思う。

　家を出た二人に視線が集まる。
　対照的な美人姉妹が浴衣姿を披露しているのだから無理もない。
　もうそんなのいちいち気にしない程度には二人とも慣れてしまっていた。
「屋台行こうよ！」
　黙っていれば妹も姉と同様に楚々とした雰囲気を醸し出しているのだけれども、喋りだすといかんせん「色気より食い物」である。
　夕方になって人通りが多くなったので、紫は蒼とはぐれないようにしながら屋台巡りを楽しむことにした。
「たこ焼きください。あとはお好み焼きに、焼きそばも食べよう」
（カロリー高そうなのを選んで食べてるけど大丈夫かしら）
　と内心で思う紫。
（尤も、ゲーマーは体力勝負とか言って普段から運動はしているみたいだけど）
　食べ物に夢中になっている蒼を微笑ましく追っていた紫の視線が、ふと一点に止まった。
　黒のワンレン、おっとり上品な印象の女性が。
（大橋先生）
　それは寝子高の大橋尚先生だった。
　実は紫は大橋先生に誘われて、去年のネコミケでレイヤーデビューしたのだ。
　声をかけようとした寸前に、先生が隣の男性に笑顔を向けているのに気づいた。
（デートの邪魔をしては悪いものね）
　すぐに状況を察した紫は、黙っていることにした。
　だが、こちらを見た先生と、目が合った。
「！」
（気づかれちゃったわね。挨拶くらいは……）
　軽く頭を下げ笑顔を向けた紫だが。
　ボタ。
　焦った先生は手に持ったべっ甲飴を落としてしまった。
「あーっ！」
（……あ、先生のうっかりミスが出たわね）
　慌てている先生を、連れの男性が優しくフォローしている。
「お姉ちゃん、焼きそば食べない？」
「あ、そうね」
　蒼に呼ばれた紫は、邪魔をしてはいけないとその場を離れた。　
　