【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

○差し入れの人々

「わあ、屋台がいっぱい！」
　歓声を上げる、お団子ヘアの畑中華菜子。
「華菜子さん、華菜子さん、何が良いですかねー」
　ショートカットでメガネの薄野五月は、華菜子に声をかけた。
　華菜子はラーメン店『猫島軒』の一人娘、五月は『蕎麦屋すすきの』の長女である。
　二人は花火の前に友人の瞬城真魚のところへ向かおうとしている。
「まおちゃんちはうどん屋さんの屋台を出してるアルヨ。まおちゃんのことだからお店も抜け出さすにいっぱいお手伝いしてるアルネ」
　何故か語尾に「アル」をつける華菜子が言う。
「そうですねー。一緒に、真魚さんに何か差し入れを持って、屋台にお邪魔しに行きましょー。ふっふ」
　五月はマイペースに笑う。
「花火の時間になったら、みんなで花火を観に行くアルヨ」

「あんず飴、たこ焼き、お好み焼き……やっぱり鉄板はチョコバナナですかね？」
「差し入れ、どれにするか迷うアルナー。まずチョコバナナは買うアルでしょ、あとはー、選べないアルー。お小遣いで買えるだけ買って、みんなで分けて食べるアル」
　美味しそうな香りに、二人ともお腹が空いてきた。
「とりあえずチョコバナナを筆頭に、美味しそうなものをひょいひょい買って行こうと思います！　両手いっぱいになるかもしれませんが、皆で食べれば大丈夫です！　きっと！　きっと！」
　あんず飴、たこ焼き、お好み焼きと、両手いっぱいに差し入れを買いこんだ二人。
「ちょっと買いすぎたかな？　まおちゃんに怒られそうアル！　でも、みんなで食べるから大丈夫だよね！」
「真魚さんの屋台はどこでしょうね？」
　人にぶつからないように、差し入れを落とさないように、辺りをキョロキョロ見回して探す。
「よくおじさんたちが『やってる？』って暖簾を上げながらお店に入るアルヨネ。私、あれに憧れてるアル。まおちゃんちの屋台に暖簾付いてるかな？」
「……あ。あれですかね？」
　五月が『うどん処』と書かれた幟を指さす。

「真魚さんいるかなー」
　五月は、あいにく暖簾のない屋台を覗き込んだ。
「真魚さん、こんばんはー！」
　華菜子は、まるで暖簾があるかのような手付きでエア暖簾を開け入っていく。
「まおちゃーん、やってる？」
「あ、五月、華菜子、いらっしゃい……って、何かありもしない暖簾潜ってきたんだけど……」
　二人に目を向けた真魚が呆れ顔になる。
「って何その両手一杯抱えきれない食べ物……どうせテンション上がって片っ端から買い込んだんでしょ、小学生じゃないんだからもうちょっと計画的に考えて……」
「差し入れですー、どうぞ。皆で食べましょう」
　真魚にいっぱいの食べ物を差し出す五月と華菜子。
「ありがとう……手が空いたときにもらうから食べてて」
　差し入れと言われては怒れない。
　クールに対応する真魚だが、なんだかんだ言っても二人の気持ちは嬉しい。　
「それじゃ遠慮なくいただいてるアル」
「あーもぉ、取敢えずせめて座って食べなさいよ……スペース空いてるから……いいわよねお父さん？」
　真魚の父は笑顔で頷いてくれた。
「この二人野放しにしてたらなんというか危なっかしいって言うか……」
　ため息をつきながら真魚は、屋台の飲食スペースに二人を座らせる。
　二人が大量に買い込んできた差し入れをテーブルに乗せるのを見ながら、
「一応お客さん用のスペースだし、親の手前うちのメニューも頼んで貰うけどいいわよね……二人ともお客、私は接客、って体で」
　商売のこともしっかり忘れていない。
「もちろんです。えーと、メニューは……冷し釜玉うどんですか」
「それじゃ、うどんと鶏天のセット２人前くださいアル！」
「まいどありー」

　ドーン！
　その時、花火の音が響いた。