【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

〇休みがとれた人々

「浴衣のほうが良かったかな……」
　電車が寝子島に近づいた時、城山水樹がそうつぶやいた。　
　ファッション誌「STeLLA GIRLS」の専属モデルに、コスメブランド「Sonora」イメージガールと、人気急上昇中の水樹。
「水樹はどんな服でも素敵だよ」

　耳元でそう囁くのは、新進気鋭のフォトグラファー、ヒュー・ヒューバート。
　今年の夏はお互い仕事が多忙だったが、それでも互いのスケジュール調整で唐突に休みができることがある。
　今日はその休みが互いに重なった日で、それでも完全オフではなかったので、東京の仕事先から渋谷で合流した。
　要領がよくＮＧをあまり出されない水樹だからなんとかなったスケジュールだ。
「今日は寝子島で花火大会があるんだって」
「いいね。行こうか」
　何気なく水樹が発した言葉にヒューが反応し、急遽花火大会へデートに向かうことになった。
　とはいえ急な話だったので、二人とも普段着のままで直行となったのだ。

　寝子電シーサイドタウン駅で降りたころにはすっかり夕方だった。
　屋台からいい香りが漂ってくる。
　おいしそうな屋台の食べ物を眺めながら、ヒューは尋ねた。
「水樹、何食べる？」
「そうね……アメリカンドッグをひとつ」
　水樹はスタイルを維持しなくてはならない仕事柄、あまり多く食べるわけにもいかない。
「それじゃ僕もそれで」
　それを知っているヒューもセーブしておくことにして、食べ物以外の屋台に目を向けた。
「射的か。何か欲しいのがあったら取ってあげようか？」
　ヒューはそう言って水樹を見つめるけれど。
　立ち止まると周囲の視線を感じてしまう。
「ね、あれ……」
「もしかしてSTeLLA GIRLSの？」
　水樹を見てひそひそと囁く声が聞こえる。
　モデルとして有名人な水樹、まして寝子島出身ということもあって目を引いてしまうのだ。
　地元の人は彼氏とデートらしいのでそっとしてくれるけど、島の外から来た人はそうもいかない。
「そうねえ。高校時代だったら欲しいものもあったかもしれないけど。今一番欲しいものは、私の隣を歩いてるわ」
　ヒューの手を取り歩きだす。
　観光客たちはその美しさと恰好よさにため息をついた。

「最近、どう？」
「ああ、いい写真が取れたよ。水樹は？」
「こっちも順調よ。カメラマンに褒められたわ」
「僕も水樹を撮る仕事がしたいよ」
　ゆっくりと近況について話をしながら、会場への道を恋人繋ぎで歩く。
　水樹とヒューとは、身長が同じ175センチ。
　つまり、互いの顔を見るとき、真っ先に同じ高さにある彼女の瞳を直視することになる。
　視線と視線が重なればまるで中学生みたいにキュンと来て、互いに赤面してしまう。
　付き合いだしたのは去年の12月のクリスマス。もうすでに何度も身体を重ねている関係にも拘らず、だ。　
（本当に飽きない）
　二人の思いは一致していた。