【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

〇支度する人々

　８月中旬の花火大会当日。
　参道商店街のうどん屋『またたぎ亭』が出店準備をしていた。
「ま、晴れてよかったよね」
　看板娘である瞬城真魚は、エプロン姿で父と共に屋台の出店準備をしていた。
　まだまだ暑い時間だが雲も少なく、風が強すぎることもない花火日和だ。
　これならたくさんのお客の来場、ひいてはうどんを食べに来てくれるお客も期待できるだろう。
　さんざん悩んだメニューは結局、紙製丼に、冷水で一度締めた讃岐うどんに卵を絡め、だし醤油、刻み葱のシンプルな冷やし釜玉うどん。
　更にその上に衣サクサクの鶏天を添えた『冷し釜玉うどん&鶏天』のセットとなった。

　お客の入りはもちろん気になるが、せっかくの花火大会、花火見に行く余裕があるかどうか。
　同じく家が麺の店を営んでいる友人２人のところは、今回出店していないらしい。
（ちょっとだけでも抜け出して一緒に回れるといいんだけど）
　生真面目な真魚のこと、さぼろうなどという発想は元よりないけれど、正直花火を見に行きたい気持ちも否定できない。
　
　
　綾辻綾花は、猫鳴館で髪をアップにして浴衣に着替えると、１９時前には海岸に着いた。
「できればいい場所で見たいですね」
　混まないうちに良さそうな場所を見つけておきたかったのだ。
　幸いいい場所を見つけ、レジャーシートを敷いてから、屋台へ向かう。
「タコ焼きに、あんず飴もいいですね」
　両手に買ったものを持ち、見つけておいた場所に戻る途中で、その人を見つけた。
「珪先生！」
　思わず声をかけると、担任の早川珪先生がゆっくりと振り向いた。
「綾辻さん？　見違えたよ。浴衣、似合ってるね」
「……ありがとうございます！　珪先生、あの、一人ですか？」
　浴衣姿を褒められ、ドキドキしながら綾花は問う。
「一人だよ。綾辻さんも？」
　その笑顔に頬が熱くなる。
　よかった、と思いながら言葉を紡いだ。
「よかったら……花火を一緒に見たいです」　
「ああ、そうだね。どこがいいかな」
「あ、さっき見つけた場所があって……」
　綾花は先に立ち案内する。
　明るいうちに先生と並んで歩くのはなんだか恥ずかしい。
「着きました。冷めないうちにたこ焼きを食べましょう」
「いい場所だね」
「喜んでもらえてよかったです。あの、一緒に食べませんか？」
　レジャーシートに座り、珪先生にもたこ焼きを勧めた。
「いいのかい？　それじゃ一ついただくよ」
　珪先生はたこ焼きに手を伸ばし、隣に座ってくれた。
「一つと言わず、たくさん食べてください。私はあんず飴もありますから」
「こういうところで食べると美味しいね。それじゃもう一つもらおうか」
（お店の人に青のりをやめてもらって正解でした。歯に付いてるか気になっちゃうので）
　そんなことを思いながら、綾花は話しかける。
「花火が始まるまでドキドキしますね」
「そうだね」
　図書室にいない珪先生は、いつもよりも若く見える気がした。

このページにイラストを設定する