【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

○大食いな人々～あじさいの花火

　寝子高１年の楡宮遠海は、一人屋台の前に佇んでいた。
　水色の地に水風船や金魚を泳がせた柄の浴衣をスレンダーな肢体に纏わせると、黙っていれば清楚な鎌倉のお嬢様風の愛らしい顔立ちによく似合う。
　そう──黙っていれば、だ。
「焼きとうもろこしください。あ、焼き立てでないのがいいです」
　残念ながら彼女は見た目とは裏腹の大食い女子だった。
　軽音部で普段からハードな練習やらライブやらに明け暮れたりしている、から……というレベルはとうに超越している。

　まずは軽く焼きとうもろこしでエンジンを温める。
　遠海は猫舌のため、食べ物は必ず冷ましてからでないと食べないので、焼き立てでないものを頼んでいる。
　普通サイズの焼きとうもろこしだ。
　それを、あっという間に食べつくして次へ向かう。
「イカ焼きください」
「タコ焼きください」
　いったんここでポップコーン（キャラメル味）で舌をリセット。
「このお好み焼き、広島風ね！」
　それからサイダーで水分を取り、焼きそば、から揚げ、お好み焼き……と、味が濃厚なものを順繰りに攻める。
　それは、さながら作物を食べつくすイナゴにも似た状況だった。
「この今川焼、いい小豆を使ってる！」
「おっ、お嬢ちゃんわかってるね！」
　店主との会話に、自然と人目が遠海に集まる。
　清楚な美しさに見惚れた周囲が「あの子、よく食べるなあ」と思って見ているうち、だんだん驚嘆というか、呆れというか、そんな視線へと変わっていく。
　だが幸せの境地にある遠海は全く気が付かない。
　もっとも、遠海はガツガツと食い散らかさず、不思議なくらい品よく食べている。
　何より幸福感に満ち溢れた表情を浮かべていることから、不快感のようなものは全く感じさせない。
（あそこまでいい食べっぷりだと、逆にすがすがしいな）
　そんなわけで、やっぱり周囲は彼女から目を離すことができないのだった。

　ドーン！
　花火が始まってからも、遠海の食欲は衰えを知らなかった。
　花火の合間に……ではなく、食事の合間に花火見物をする。
　色とりどりの花火が空中を彩る様は見ていていいものである。
　さすがにお腹がいっぱいになってきたが。
（しばらく見ていたらまた小腹も空くわよね）
　お腹を空かせるため、適当に「たーまーやー」とか掛け声を出したりする。
　そんな遠海に、異変が起こった。

　夜空にあじさいの花が咲くのを幻視した途端、ポロポロ涙がこぼれだしたのだ。
（なぜ……？）
　戸惑った。お腹が痛いわけでも辛い物を食べたわけでもないのに？
　わからないまま、涙をこぼし続ける。

　けれどひとしきり涙を流し切った後、お腹はいい具合にすいていた。
（次は何を食べようかしら）
　これ幸いと、遠海はまた食べ歩きに戻るのだった。