【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

〇腐れ縁の人々

　白地に青い桔梗の図柄の浴衣。髪には蜻蛉玉の髪飾り。
　見た目はボーイッシュな椎井莉鳥だが、女物の浴衣を着て髪飾りなどをつけてみるとそれなりに似合っていた。
　莉鳥は陸上部のメンバーと花火大会の見物に出かけた。
「椎井先輩、とっても似合います！」
　と後輩の女の子から言われても、いつものように不愛想で無表情な様子を崩すことはなかったが。
「……ありがとう」
　気をつけて見れば少しだけ口元が上がっていて、内心まんざらでもない様子だった。
「花火大会が始まるまでまだ時間があるのわね」
「屋台で食べ物を買いましょう」
　皆で買い物をして、適当につまむ。
「先輩、何食べます？」
「それじゃ、焼きそばを」
　熱々の焼きそばを食べて、それから口直しにメロンかき氷を買った。

　北里雅樹は、来年は大学受験で受験勉強の真っ最中……のはずだった。
「でも、息抜きに出るのも悪くないよな」
　雅樹にとって寝子島での花火大会も今年で最後。来年、本土の大学へ進学予定なので、しばらくは戻ってこない。
　もしかするともう二度と寝子島へは戻らないかもしれない。
　普段着に白いパーカーを羽織って会場へ向かう。
　猫鳴館の住人である雅樹は、節約生活の真っ最中……なのだが。
（節約ばかりじゃ気が滅入るもんな。少しはパーッと贅沢をしなけりゃ気持ちまで貧乏になっちまう）
　途中でコンビニにより、預金の中から3000円ほど引き出してきた。
　屋台通りにやってくると、気の早い奴は持参の手持ち花火で早速盛り上がっていた。
「まずはたこ焼きだな」
　屋台でたこ焼きとメロンサイダーを買って、色彩的にミスマッチな何かを満喫する。
　味もミスマッチなわけだが、気にしてはいけない。
　一通り腹ごしらえした後、手にポップコーンを持って会場へ向かった。
　人の流れに乗って移動中に、誰かとぶつかった。
「……おっと失礼」
　そう言ったら、こちらを見たのは、見覚えのあるスレンダーでボーイッシュな少女。
（この前の七夕ゆかた祭りの時に着ていた浴衣だな）
　そう思って、自分の記憶力に驚いた。
　興味のないことなら覚えていないのだが。
「椎井、浴衣着てるってことは友達と来てるのか？」
　そういえば周囲の顔ぶれにはなんとなく見覚えがある。

　莉鳥は会場へ移動する途中、人込みの中で誰かにぶつかった。
「おっと失礼」
　かけられた聞き覚えがある声に、思わず顔をしかめた。
　視線を向ければ、幼馴染にして腐れ縁の元カレがポップコーンを手に立っていた。
　陸上部の仲間たちは、莉鳥を見て顔を見合わせている様子だ。
　そのうちの一人が、笑顔で莉鳥に言った。
「約束してたの？　言ってくれればいいのに～。じゃあね」
　え？　と思っているうちに、後輩の子は耳元でささやいてくる。
「がんばってください！」
「え、いや、別に……」
　説明する間も与えずに仲間たちは去り、残されるのは浴衣姿の元カノと普段着の元カレ。
「気を利かせてくれたのかな。行かなくていいのか」
　雅樹の目線は陸上部の子たちを追っている。
「……妙なタイミングであんたと出会うね」
　ため息をつくようにつぶやき、莉鳥は目を落とした。