【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

〇屋台の恋人たち

　佐和崎紗月と初瀬川理緒は受験勉強の真っただ中の高校３年生。
　夕方まで、理緒が住む桜花寮の部屋で受験勉強をしていた。
「そろそろ切り上げようか」　
　紗月は白の繊細な生地に月下美人の華が咲く浴衣を身に纏い、ウェーブのかかった髪をハーフアップに結わえて、そこに小さな白花を飾り添えた。
　理緒は透き通った空の水色に牡丹を添えた大正ロマン風の浴衣に着替えながら、
「今年３度目の浴衣を着る機会だね」
　とつぶやいた。
「理緒ちゃんは撮影でもっと着てるでしょ？」
　紗月が言う。
　確かに理緒は、グラビアアイドルをしている仕事柄、撮影で何度か浴衣を着ている。水着と並んで着る機会が割と多いのだ。
「でも、紗月と一緒の時に着るのは特別」
　長い黒髪をアップにし、華やかなリボン飾りのかんざしを挿した理緒は、微笑んで紗月に囁く。
　そう、最愛の人にはそんな特別な日の特別な自分を見てほしい。
「今日もとっても可愛いよ」
「紗月もね」
　２人は朝顔のように笑いあった。

「花火大会、８時ごろから始まるんだよね」
　寮を出て紗月が言う。
「花火大会が始まるまで、しばらくは露店で適当に遊ぼう」　
　理緒は答え、２人は屋台通りへ向かった。
「あ、金魚すくい！」
　さっそく理緒はポイを手に、赤い優雅な金魚に狙いを定める。
　けれど、大胆にすくい上げようとした獲物はバタバタ暴れて。すぐに紙を破って逃げてしまった。
「残念だったね……」
「次は輪投げやろう」
　屋台はもちろんゲームばかりではなく、むしろ食べ物系のほうが多い。
（理緒ちゃん、本当は屋台であれこれ買い食いしたいだろうな……）
　熱心に屋台で遊ぶ理緒の姿に、紗月は彼女の気持ちを察する。
（お腹空いた……）
　どの屋台からも美味しそうな匂いが漂い、強烈に誘惑してくる。けれど、グラドルの理緒は体型維持も契約のうちに入っている。だから我慢我慢だった。
「あー、だめか」
「もうちょっとだったね」　
　その後もスマートボールなど、ひたすらゲームに興じるけれど……腕前が残念なのでちっともかすりもしない。
（こういうの始めたの中学生からだからなあ……）
　理緒は小学生６年生までは親の意向で勉強ジャンキーだったから、お祭りで遊ぶこともなく、当然こんなふうにムキになったりすることもなかったのだ。
　パン！
「あー、また外した！　今度こそ！」
　狙っていたアクセサリーから全然遠いところに弾が飛び、射的の銃を手に悔しがる理緒。
（下手なのは自分でも判るけど、結構ヘコむなあ）
　静かに見ていた紗月だが、屋台のおじさんにすっと近づき、銃を手に戻ってきた。

「あれが欲しいんでしょ？　私に任せて」

「えっ？　紗月もあまりゲームは得意じゃないんじゃ……」
　紗月の発する静かな自信に驚く理緒だが。
（こういうのはむしろ、手仕事に近いわ）
　紗月は繊細な注意で狙いを定める。
　パン！
「惜しい！」
　弾はアクセサリーを掠めた。
「待ってて」
　２発目、狙いをつける紗月。
　理緒はその表情を息を飲んで見つめる。
　パン！
　見事、紗月は獲物を仕留め、歓声をあげた理緒に抱きつかれた。
「すごい紗月！　ハート撃ち抜かれた！」
「理緒ちゃんったら」
　紗月は嬉しそうに頬を赤らめながら、賞品を理緒に手渡した。
　