【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

○ナンパを撃退する人々

（ネコジマに飛ばされるのもこれで何度目だろうな）
　ほしびとのティオレ・ユリウェイスは頭をかいた。　
　寝子島へ来ると服装が変わるのだが、今のティオレの姿は至ってラフ。オフショルダーＴシャツに肩からは重ね着しているタンクトップのストラップ部分が見え、足元はショートパンツだった。
　ポニーテールに良く似合う動きやすい格好だ。
　神魂がらみの出来事に何度も巻き込まれたりするので、正直この島に来るとどうしても運気が下がる思いがある。
（それでもさすがに何度も飛ばされたらそれなりに島での過ごし方も楽しみ方も判ってくる）
　聞こえてくる人々の会話から、これから花火が打ち上げられることはわかった。
　お金はこちらのものが財布に入っているので困らない。
　適当に露店を巡って、店の人に声をかけた。
「それはお茶？　じゃあ、それを」
　賑やかな酒場の雰囲気は好きだが、実はティオレは下戸なので酒の類は飲めないし飲まない。
　飲み物やら食べ物を調達してのんびり歩く。

　ウーロン茶と焼き鳥とお好み焼きとイカ焼きを手に、どこか落ち着けそうなところを探していると。
「そこのセクシーなお姉さん、俺らと一緒に花火見ない？」
　どこにでもいそうなチャラ系の男たちに声をかけられた。
「……○▼×××！　ＯＴＯＴＯＩＫＩＹＡＧＡＲＥ！」

　早口で星幽塔の言葉をまくし立ててやった。
「……」
　白い肌に青い目。ティオレはこの世界では「ガイジン」に見える容姿の主なので、「英語でもスペイン語でもなさそうだけど、どこか遠くの外国の言葉」を早口でまくしたてられたと思われただろう。
　意味不明ながら拒絶の意志はしっかり伝わり、相手はそそくさと逃げていった。
　そんな気分じゃないので、別に構わない。
　そうして歩いていると、また声をかけられる。
「かっこいいお嬢さん、一人？　僕と……」
「……×××●◇！　ＫＩＢＵＮＮＪＡＮＡＩ！」
　２、３回それを繰り返したが、やっと人が来ない落ちつけそうな場所を見つけた。

　やがて花火大会が始まる。
　ドーン。
　空に色とりどりの大輪の花が咲き乱れるのを見ながら、ウーロン茶や焼き鳥、お好み焼きなどを飲み食いする。
（ネコジマとの相性はお世辞にも良いとは言えないが、今夜は何事もなく無事に済みそうだ）
　星幽塔に戻ればまた盗賊稼業に戻るわけで、せいぜい今夜は英気を養おうじゃないの、とティオレは思う。
　ドーン。
　花火が上がる中、ティオレはひまわりの花が咲く幻を見た。
　黄色い光の大輪を見ていると、心が温まるようだ。
「あれ？　なんか妙にご機嫌になってきた」
　クックックッ……謎の笑いがこみあげてきて止まらない。
　酒を飲んだ覚えはないのだが。これではまるで酔っ払いだ。
　さっきナンパしてきた気障な男の、すました顔が星幽塔の言葉に驚いて一気に崩れたことを思い出し、ツボに入った。
（でもまあいいか）
　笑いながら、いい夜になりそうだ、とティオレは感じていた。